福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第21回:信用倍率について(市場全体)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第20回:信用情報の見方(売り残高)

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前回まで、市場全体における買い残高や売り残高について解説してきましたが、今回は買い残高と売り残高の割合について解説したいと思います。ところで投資家のみなさんは、「信用倍率」と言う言葉を聞いたことがあるでしょうか。

この信用倍率と言うのが、買い残高と売り残高の割合になります。具体的には、買い残高を売り残高で除したものになります。また買い残高、売り残高ともに週末時点の残高が翌週の火曜日に発表されますが、このときに発表されたデータをもとに、信用倍率を算出します。したがって、翌週に各残高が増減すれば、信用倍率も変動することになります。

前回、前々回と2回に渡って解説した買い残高や売り残高について聞いたことがある投資家は多いと思いますが、買い残高と売り残高の割合を示した倍率はあまり聞きなれないかもしれません。新聞でも、買い残高と売り残高について言及した記事は多く見かけますが、信用倍率について解説した記事はあまり見かけません。

実際には、個別株では信用取引の倍率について確認している投資家は多いようです。なぜなら、信用倍率も将来の株価動向を探る上で重要な判断材料になるからです。

例えば、買い残高や売り残高が増加した場合でも、大型株と中小型株では日々の売買代金が異なるため、一概にどの水準の金額が多いとか、少ないとかを示すことは難しいと思われます。

また、多い、少ないといった水準となる金額を示すことができたとしても、個別銘柄毎にそうした水準を導き出そうとすると相当な種類になってしまいます。

そこで信用倍率の出番になります。前述のように、信用倍率は買い残高を売り残高で除したものになりますから、残高となる金額が数百億円でも数百万円でも、買い残高と売り残高の割合を数値化することで、大型、中小型株といったどの規模の銘柄の残高水準でも同じ基準で判断することができるようになります。

これは個別株だけでなく、市場全体でも同じことが言えるため、市場全体の信用倍率を確認することで、将来の株価動向を探る判断材料になるのです。

ただ、個別株と市場全体ではベースが少し異なります。個別株では株数ベースで信用倍率を算出するのに対し、市場全体では金額ベースで算出します。市場全体でも株数ベースの数値は発表されていますが、これは市場全体で見た場合、株数ベースより金額ベースの方がより市場の実体を表していると考えられるからです。

では実際のデータで確認してみましょう。まずは個別銘柄の信用倍率からです。例として取り上げるのはサンリオ(8136)です。11月22日申し込み時点のサンリオの買い残高と売り残高は、それぞれ747,500株と711,400株です。そこで信用倍率を算出してみると…。

信用倍率=747,500株(信用買残)÷711,400株(信用売残)=1.05倍となり、倍率が1に近く、売り残高と買い残高が拮抗していることが分かります。

一方で、市場全体はどうでしょう?11月22日申し込み時点の金額ベース(東京・名古屋2市場、制度信用と一般信用の合計)の買い残高と売り残高ですが、買い残高は4兆2,395億円、売り残高は6,489億円でした。これだけを見ると、買い残高が多いことが分かりますが、信用倍率にしてみるとどうでしょう?

信用倍率は4兆2,395億円÷6,489億円≒6.53倍となります。このように信用倍率は7倍近いことが分かります。

サンリオはほぼ1倍なのに対して市場全体では6.53倍と、株数ベースと金額ベースの違いはありますが、大きく異なっていることが分かります。

そこで、これまで解説してきた買い残高と売り残高についてそれぞれ思い出してみてください。買い残高が多い場合は、将来の売り要因と考えられますし、売り残高は将来の買い要因と考えられるとした場合、信用取引の買い残高が多く倍率が高い方が、将来悪材料が出た時に売り圧力が強くなることが考えられるのではないでしょうか。

また、信用倍率が大きくなればなるほど、買い残高が売り残高を大きく上回っていることになりますから、悪材料が出て買い残高を抱えている投資家が一斉に売りに回り始めると、売り残高を抱えている投資家は買い戻しをしても株価の下支えにならないことが予想されるのです。

したがって個人投資家のみなさんは、買い残高と売り残高の割合である市場全体の信用倍率をチェックするよう心がけましょう。

またチェックしたときに信用倍率が大きくなっているときは、悪材料に注意が必要であるということを覚えておき、下落が始まったときや加速したときに巻き込まれないよう、投資の際の判断材料として役立てるようにしましょう。

【第22回】はこちら

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/

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