東証市場改革アップデート。すべてはギャップを埋めるために
これまでの経緯
東証は、2023年3月から、プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象に、「資本コストや株価を意識した経営」の推進をお願い(いわゆる「東証要請」)しており、これまでもその内容をご紹介してまいりました。
東証市場改革まとめ記事【前編】。市場改革のここまでを振り返る | 東証マネ部!
東証市場改革まとめ記事【後編】。市場改革は次のフェーズへ | 東証マネ部!
東証は、2024年11月21日、10月に開催されたフォローアップ会議をふまえ、上場企業に自社の取組みを点検・ブラッシュアップする際の参考としてもらうため、新たに「投資者の目線とギャップのある事例」を取りまとめるとともに、2月に公表した「投資者の視点を踏まえた対応のポイントと事例」について、ポイント・事例を拡充するなどアップデートを行っています。なお、2025年1月15日からは、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に対する企業の開示状況を示した「開示企業一覧表」の見直しが行われています。
今回は、これらの内容をご紹介させていただきます。
ポイント1 投資者の目線とギャップのあるポイントと事例
前回ご紹介させていただいたとおり、「資本コストや株価を意識した経営」の要請後、既に多くの上場企業で開示が進んでいますが、実質面の改革は途上にあり、企業の対応状況は大きく3つのグループに分けられています。
プライム市場においては、企業群2(取組みの開示は行っているものの、「今後の改善が期待される企業」)がボリュームゾーンとなっており、これらの企業の対応には投資者の目線とズレた取組みとなっている、投資者とのコミュニケーションを十分に行えていないなどの課題があると考えられています。そこで東証は、このような企業群2に対して特に焦点を当てたサポート策として、こちらの記事でもご紹介しているとおり、既に「投資者の視点を踏まえた対応のポイントと事例」を公表しています。
そして今回は、投資者が高く評価している開示例だけでなく、逆に「投資者の目線とギャップのあるポイントと事例」を2024年11月に公表しました。
このようなギャップ事例が提示された狙いは、企業が自社のどこに課題やギャップがあるのかを入り口に、投資者の視点を踏まえたポイントやそのポイントが押さえられた事例集をセットで理解していく方が、企業の検討がより具体的に進みやすいのではないかというものです。
これと併せて、今回「ポイント・事例集の使い方ガイド」も公表されており、まずは「投資者の目線とギャップのあるポイントと事例」で取組みの状況に応じて生じやすいギャップを自社の取組みと見比べ(Step1)、該当するものや気になるギャップがあれば、各ギャップに対応する「投資者の視点を踏まえた対応のポイントと事例」において、機関投資家に評価されている取組みや開示例を参照しながら、取組みの検討やブラッシュアップを行う(Step2)という、ポイント・事例集の使い方が紹介されています。
【ポイント・事例集の使い方ガイド】
ギャップ事例は、各事例が実際の開示を元に加工したものとなっており、企業の検討状況に応じて3つのレベルを設定し、具体的にどのような観点でズレが生じてしまっているのか、ズレを解消するためにどのように改善すればよいのか、機関投資家が日本企業によく指摘を行う10項目をまとめています。
【レベル別ギャップの概要】
【投資者の目線とギャップのある事例(レベル1)】
各項目の詳細な事例については、こちらからご覧ください。
ポイント2 「投資者が期待するポイント」と「事例集」のアップデート
東証は、2024年2月、「投資者の視点を踏まえた対応のポイントと事例」を公表していますが、公表後、国内外の投資家から追加的に指摘されるポイントや、新たに出てきた事例があったり、また、小規模な企業の事例や、スタンダード市場に上場する企業の事例を拡充してほしい、という声も寄せられたことから、ポイントや事例のアップデートが行われました。
投資者が期待するポイントの更新
投資者が企業に期待している取組みのポイントについて、今回のアップデートでは、新たに「株主・投資者の期待を踏まえた目標設定を⾏う」と「目標設定や取組みを継続的にブラッシュアップする」が追加されています。
【投資者の視点を踏まえたポイント】
投資者の視点を踏まえたポイントはこちらから
事例集のアップデート
2024年11月21日に公表された最新版の事例集では、多くの企業の事例が新たに追加されました。事例集の具体的な内容については、以下のリンクからご覧ください。
・プライム市場の事例集
・スタンダード市場の事例集
事例集は、300を超える国内外の投資者と東証の面談に基づき、投資者が企業に期待している取組みのポイントが押さえられていると投資者が一定の評価をしているプライム市場とスタンダード市場上場会社の取組みの事例を取りまとめたものです。
【事例集 プライム市場編】
開示状況別の株価推移も公開
ご参考にはなりますが、東証要請が出された2023年3月31日を起点とした企業の開示状況別の株価推移も今回紹介されました。以下のグラフによると、企業の開示状況とそれに対する投資家からの評価によって、株価のパフォーマンスに差が出ていることがわかります。投資者と目線のあった取組みや開示を進める企業は、市場から評価されているといえるかもしれません。
【開示状況別の株価推移】
・プライム市場
資料はこちらからも!
・スタンダード市場
資料はこちらからも!
<上記グラフにおける色別 企業の開示状況>
赤色:「事例集」 掲載企業
青色:「開示企業一覧表」で「開示済」となっている企業
水色:「開示企業一覧表」で「検討中」となっている企業
灰色:「開示企業一覧表」に掲載されていない「未開示」の企業
開示企業一覧表とは
東証は、対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取組みを後押しする観点から、企業の開示状況を一覧にして公表しています(毎月15日更新)
<一覧表はこちら>開示企業一覧表
エクセルをダウンロードしていただくと、以下のような形で開示企業一覧を確認できます。
ポイント3 開示企業一覧表の見直し
開示企業一覧表について、2025年1月15日からアップデートされました。
アップデートされた点は以下のとおりです。
1点目:企業が開示をアップデートしたことがリストの中でわかるように、アップデート日付をリストに追加
2点目:機関投資家からのコンタクトを希望する企業を、リスト上で明示
3点目:「検討中」というステータスでのリスト掲載について、原則半年間という期間を設けることとし、また、現在「検討中」というステータスの企業に対しては、具体的な検討状況や開示見込み時期の記載を改めてお願い
公表内容については以下のリンクをご覧ください。
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する見直し後の開示企業一覧表の公表について
なお、グロース市場上場会社のIR活動を支援していく観点から、より活発に機関投資家からのコンタクトを希望する企業の一覧化も開始されました(初回の公表日は2025年1月15日。毎月15日を目途に更新予定。)。詳しくはこちらをご覧ください。
今回ご紹介したポイント1~3の取組みは、マーケットの主役である、企業と株主・投資家の目線のズレ(ギャップ)が埋められることを期待したものといえるでしょう。
「東証市場改革まとめ記事【後編】。市場改革は次のフェーズへ」でもご紹介したとおり、東証市場改革は、単に要請に応じるために対応するという形式的なものでは終わらず、実質面の改革を行うという本来の趣旨を改めて追求する新たなフェーズに入っており、市場改革はまだ始まったばかりといえます。株主・投資家からの期待が⾼まっているなか、企業の変革が積極的に進められることが期待されています。
【ご参考】
11/21の公表資料はこちらから
(東証マネ部!編集部)