プロが語る!資産形成のすゝめ

~価格上昇を続ける金価格。さて・・・~

金(ゴールド)はどこまで上がるのか?

提供元:三菱UFJ信託銀行

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近年の金相場

この原稿を書いている2025年3月中旬は、世界的な株高の状況から少し株価が下落する軟調な時期となっています。このように短期的な見方ではなく、近年の金融資産の動きをみてきたいと考え掲載しましたのが以下のグラフです。

株式・債券は紆余曲折的な動きとなっておりますが、ただ一つ堅調な動きをみせているのが金(赤い線)です。外国株式がここに来てようやく金の動きに追いついてきたという感じです。国内株式はまだまだといったところです。

これをもって「金は大きく下がることはないのでいいですよ」と言うつもりは毛頭ありません。そうではなく、金を保有する際に期待される機能・効能を皆さまにご理解いただきたいのです。

ではその機能・効能とはどういったものか次のパートでみて参りたいと思います。

“保険”の役割を果たす金

本稿の趣旨は「ゴールド相場がどうなるか?(どこまで上がるか?)」ですが、その前に金の果たしてきた役割、そしてこれからも果たすであろう役割について今一度考えてみたいと思います。

それではまずリーマンショック(百年に一度の金融危機と言われました)直後の金(赤い線)の動きを振り返りましょう。図1のグラフでも分かるように、2008年秋、リーマンショック勃発直後は、金も他の資産と同様に売られているのです。株式などの価格下落を受けて、なんとか現金を捻出する必要があるため金を売却したと考えられています。いわゆる「換金売り」です。

注目すべきは、その直後の金の動きです。他の資産と打って変わって、いち早く立ちあがっているのが分かります。やはり当時は、リーマンショックで株式が売られるのは当然としても安全資産と考えられていた債券、特に世界で一番信用力があり流動性も高い米国債券までもが売られた・・・。信じるものは、もう一つの安全資産と考えられていた「金」だったのですね。

この一例をみても、金というのは世の中が不安定な時、不確実性の高い時に光り輝くのです。

この金の資産運用ポートフォリオにおける役割を整理したものが以下の表です。
左側のリスク項目と右側の金の保険機能が呼応しています。

本パートの結論は次の2点です。

(1)資産運用の安定化を脅かす様々なリスク要素に対して金は保険の役割が期待されています。
(2)ポートフォリオのリスク分散として、運用資産に金を組み入れることは有効と考えられます。

ゴールド相場予測

さてここからが本稿の本題ですが、足許の動きや世界を取り巻く環境を考えながら、2025年の金の相場の展開を考えてみました。

まずベースとなる考え方と前のパートでご紹介しましたそれらに対する金の保険の機能・効能をセットで考えました。

(1)トランプ関税によるインフレ懸念 :実物資産の金としてインフレに強い(インフレヘッジ)
(2)中央銀行による金買い :米ドル信認が低下する中、無国籍通貨としての金(通貨ヘッジ)
(3)景気・株価の失速懸念 :リーマンショックとまでは言わないが景気・株価失速に対する備え(テールリスクヘッジ)
(4)地政学的リスクの新たな勃発・継続 :純粋に安全資産としての金
(5)金の認知度向上 :ポートフォリオに金を組み入れる(分散投資効果)

以上のようにみてみますと、この先もまだまだ不透明・不確実なことが多そうです。このような環境下、2025年も約四分の一が経過しましたが、筆者的に今年の金相場はどうなるかを検討してみました。

足許ではNY(ニューヨーク)の金先物は2024年1年間で約30%上昇しました。2023年は約10%の上昇です。2022年末からの2年間ほどで約40%の値上がりです。「こんなの続かないよ」との意見も多いですが、なかなかそうでもないのが現在の世界の状況と筆者は考えています。

金相場を考えるにあたって、まず考えなくてはならないことがあります。それは、金の最大の弱点は「高金利」だということです。なぜなら金は株式・債券のように配当や利息を生みません。そしてその競争相手になるのが米国の政策金利です。

2025年3月14日現在の米国政策金利は、4.25%~4.50%です。因みに日本の政策金利は0.50%。

この米国政策金利が引き下げられるのか引き上げられるのかで金相場も大きく影響を受けます。もちろん、金利を持たない金ですから、基本的には金利引き下げが追い風になります。2022~2023年は金利引き上げの時代でした。2024年になりようやく金利引き下げが実施され、続く2025年も金利引き下げが大いに期待されていました。

ところがインフレ率がなかなか下がりきれない状況下で金利を引き下げると、逆にインフレを助長することになります。米国の金融当局はなかなか難しい運営を迫られているのが実情です。

米国政策金利が今後どうなるかに場合分けして、それぞれの場合に金相場がどれくらい変動するのか試算してみたのが下表です。NY金先物の価格想定となります。なお2025年3月13日の終値は2,991.3ドルです。

(注)1回あたりの利上げ・利下げは基本的に0.25%を想定。発生確率、金価格の想定増減率は筆者の想定。

筆者は発生確率が60%と一番高いケースを想定していますが、このケースですと概ね1トロイオンス(約31.1グラム)=2,900~3,400ドルとなります。また上記各ケースが各発生確率で起きたとしたら、2,867~3,222ドルと計算されます。

こちらはあくまでも筆者の個人的な見解ですので、このようになる保証は、全くありません。ただ現在の世界が置かれている状況は『金にとってアゲインスト(向かい風)になる要素は少ない』と考えています。

本稿が皆さまの今後の金投資の一助になれば幸いです。

(2025年3月14日、記)記載内容は筆者の個人的見解に基づくものであり、三菱UFJ信託銀行全体の見解ではありません。

著者/ライター
林 恒
三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社後は、主に年金運用関連のファンドマネージャー・ディーラーを経験。その後は、投資商品に関する営業企画・営業推進活動やラップ商品のポートフォリオマネージャーを担当するなど、入社以来総じて運用関連業務に携わる。現在は上場来まもなく15年となる貴金属を裏付け資産とした上場信託(ETF)“金の果実”シリーズのプロモーション活動に係る企画・運営等を務める。

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