景気を見る2つのものさし

日経記事で学ぶ~幸福寿命を延ばす投資術8

提供元:日本経済新聞社

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本コラムは東証マネ部!で連載した「日経記事でマネートレーニング」の続編で、投資や資産形成の幅広いスキルや基礎的なノウハウの習熟を目的としています。拙著「幸福寿命を延ばすマネーの新常識」(日本経済新聞出版刊)を大幅に再構成・加筆し、日経電子版の注目記事なども織り交ぜつつ、総合的な金融リテラシーの底上げを目指します。

この原稿を執筆している2025年4月初め、世界の株式相場が急落に見舞われています。トランプ米大統領の関税政策発動が発端となり、世界景気が後退に陥るという観測がにわかに台頭したためです。この動きを伝える各メディアは「GDPで〇%押し下げ」といった記事が目立ちます。今回、取り上げるのは景気とGDPなど景気をみるモノサシについてです。

そもそも、景気とは何でしょうか? 日常用語として使いますがいざ定義を求められると即答できないですね。

経済活動の総量、GDPで見える化

景気を一言で定義すると経済活動の状況を指します。「景気が良い」とは経済活動が活発になっていること、「景気が悪い」は鈍化していることです。良い悪いは主観的な表現なので、これを数値データで見えるようにしないといけません。この代表的なものさしが国内総生産(=GDP)です。

GDPの記事は日経電子版でもトップ級で扱いますし、一般の全国紙でも必ず記事になります。株式や金利、あるいは日常生活の生計に直接関係がない話題だとしてスルーしがちですが、景気の先行きをうかがい知るための最重要指標なのでさっと目を通す習慣はつけたいものです。

ところでGDPとは、一国で生み出された財やサービスの付加価値の総量を示します――。と、説明しても何だかわかりませんね。図をごらんください。

クッキーの製造工程を例に追いかけてみましょう。まず小麦粉を仕入れて、といいたいところですが違います。原材料を生育する段階から考えないといけません。その意味で土を肥沃にする、つまり肥料生成からスタートしましょう。

小麦を生育するために、栄養分の豊富な土壌にするという作業が発生します。肥料代などが付加価値になるわけですね。次に小麦を育て、製粉して販売します。製粉という工程=付加価値が卸価格には上乗せされています。小麦粉を仕入れて加工・味付けし、菓子に変わります。「おいしさ」という価値が加わって金額がさらに高くなります。

まだ、ありますよ。お菓子を小売店に運搬する際には物流コストが発生します。運送はもちろん立派な付加価値です。このようにモノを作る様々なステップで付加価値が生じ、価格が積み上がっていくわけですが、この合算がいわばGDPのイメージです。

付加価値が重なる過程では「物価の上昇」という要素が加わります。本来1万円の付加価値があれば1万円を上乗せするのが合理的ですが、実際には物価高を反映して1万2000円で売ったとしましょう。見かけは1万2000円の付加価値なのでこれを名目GDPといいます。物価高を除いた正味の付加価値が実質GDPでこのケースでは1万円になります。

GDPの約7割は民間部門です。民間は個人と法人に分かれますが、個人消費が過半を占め、残りが企業の設備投資などです。個人の購買行動が活発になったり、企業の設備増強が増加したりすることはまさに景気の拡大そのものです。

残りはインフラ整備などの公共投資や社会保障をはじめとする行政活動などです。GDPの構成比は各国でけっこう違いがあり、米国では個人消費のウエイトが約7割と日本より高めです。

著者/ライター
田中 彰一
日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員。マーケット・企業取材歴35年と現役最古参。日経電子版の開発、ニュースレター連載、テレビ解説と「創る・書く・話す」の三刀流をこなす。CFP認定者、シニア・プライベートバンカー、宅建士。東証マネ部!の長寿コラム「日経記事でマネートレーニング」はデジタル小冊子に(無料ダウンロード可)
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