iDeCoの掛金上限額が大幅引き上げ予定
掛金増の「新iDeCo」いくら積み立てる?iDeCoとNISAのどちらを優先すべきか
提供元:Mocha(モカ)
退職金とiDeCo、両方もらう場合の税金
しかし、退職金とiDeCoを両方もらえる場合の退職所得控除の扱いは少々複雑です。退職所得控除は退職金とiDeCoを合算した金額に適用します。このとき、iDeCoを先に受け取るか、退職金を先に受け取るかで合算の対象になる年数が異なります。
【退職金を先に受け取り、iDeCoを後から受け取る場合】
「前年から19年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象
【iDeCoを先に受け取り、会社の退職金を後から受け取る場合】
・現行:「前年から4年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象
・改正案(2026年1月1日以降):「前年から9年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象
退職金とiDeCo、それぞれの退職所得控除を利用するには、たとえば「60歳でiDeCoを先に受け取り、70歳で退職金を後から受け取る」ことが必要になります。もしも退職金が先なら、iDeCoの受け取りは最長で75歳からなので「55歳で退職金を先に受け取り、75歳でiDeCoを後から受け取る」ことが必要に。つまり、どちらにしてもそれぞれの退職所得控除を利用するのは実質的に不可能でしょう。
退職金とiDeCoの合算の対象期間中に両者を受け取る場合、退職所得控除に適用する年数は長い方が採用されます。
では、退職金とiDeCo、両方もらう場合の税金を計算してみましょう。
勤続年数35年・退職金2000万円、iDeCoの加入年数25年・資産2000万円を60歳で受け取る場合、納める税金は次のとおりです。
退職所得:(4000万円―1850万円)×1/2=1075万円
所得税:1075万円×33%―153万6000円=201万1500円
住民税:1075万円×10%=107万5000円
納める税金:308万6500円
この例では、退職所得控除がより長い「勤続年数」で計算されています。しかしそれでも、納める税金が308万6500円になってしまいます。
前述の「iDeCoで25年間、月4万5000円を積み立てた場合」の所得控除による節税効果は202万5000円でしたので、所得税率が5%・10%の場合は支払う税金のほうが多くなってしまいます。
●受け取りを1年以上ずらせば税金が減る
支払う税金を減らすために、退職金とiDeCoの受け取りを1年ずらすことを考えてみましょう。退職金とiDeCoは、同時に受け取らなくても問題ありません。たとえば60歳で退職金、61歳以降にiDeCoを受け取ることも可能です。
退職金受け取り時に退職所得控除を使い切るため、iDeCoでは退職所得控除が使えませんが。iDeCoの60歳以降の加入年数に基づく退職所得控除が活用できます。退職所得控除が80万円に満たない場合には、80万円となります。
これにより、受け取りのタイミングをずらせば適用される所得税率が下がり、所得税が少なくできる場合があります。
60歳で退職金を受け取り、61歳でiDeCoを一時金で受け取る場合で税金を計算してみます。勤続年数35年・退職金2000万円、iDeCoの加入年数26年・2060万円です。
【退職金】
退職所得:(2000万円―1850万円)×1/2=75万円
所得税:75万円×5%=3万7500円
住民税: 75万円×10%=7万5000円
納める税金:11万2500円
【iDeCo】
退職所得:(2060万円―80万円)×1/2=990万円
所得税:990万円×33%―153万6000円=173万1000円
住民税: 990万円×10%=99万円
納める税金:272万1000円
→納める税金合計:283万3500円
納める税金の合計は283万3500円になりました。同時に受け取る場合は308万6500円でしたので、税金は25万円安くなります。
ただ、退職金とiDeCoを受け取るタイミングをずらすことで税金が安くできる場合があるといっても、所得控除の節税効果を打ち消して税金を多く払う可能性があることには変わりません。
そこで活用したいのが新NISAです。新NISAは投資で得られた利益にかかる税金を生涯にわたってゼロにできる制度。新NISAであれば、出口で税金がかかることはありません。仮に投資元本1800万円が1億円になったとしても全額を非課税で受け取れます。
iDeCoとNISAは併用がベター!どちらを優先する?
iDeCoの所得控除の効果は確かに魅力的で、新NISAよりも強力ですが、資産を受け取るときの出口を考えると、NISAと使い分けたほうがよいでしょう。
iDeCoは、投資成果に関わらず確実に節税金額が得られる制度です。そして、65歳未満(改正案では70歳未満)までしか積み立てられない期間限定の制度でもあります。それを考えると、iDeCoは積極的に活用したい制度だといえます。
NISAには、iDeCoのような所得控除はありませんが、年齢上限なく一生涯使えますので、運用しながら取り崩す際に活用しやすい制度です。
退職金の有無、年収の高低、積立金額の設定、ライフイベントの有無によって戦略は変わってきますが、iDeCoとNISAは「併用」を前提とした戦略がベターです。
退職金がない場合は、iDeCoの出口での税負担は少ないので、積立金額はiDeCoが多めでも良いかもしれません。特に、年収が高い(所得税率20%以上)ならば、iDeCoの所得控除の効果が大きくなりますので、なおさらiDeCoを優先することを考えましょう。
退職金がある場合は、iDeCoの出口での税負担を考慮し、NISAを優先しても良いかもしれません。年収が高い(所得税率20%以上)ならば、iDeCoの所得控除による節税で浮いた金額をNISAの投資に回すのもよいでしょう。
iDeCoやNISAを含む制度はたびたび法改正されます。お話ししたように、iDeCoの掛金上限にしても本稿執筆時点ではまだ決定ではありませんし、NISAも高齢者向けの「プラチナNISA」が創設されるというニュースもあります。
退職所得控除の20年超「年70万円」も「年40万円」に縮小される可能性がありますし、金融所得課税のあり方も見直されるかもしれません。
iDeCoもNISAも長い間付き合う前提の制度ですが、今後の改正で制度が変わってくることもあるでしょう。それを考えると、iDeCoもNISAも両方とも活用しておくのがベターといえるでしょう。
[執筆:マネーコンサルタント 頼藤太希]
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