金価格は(より)高く(より)長い上昇レジームへ

2025年 年央金市場見通し

提供元:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント

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上場投資信託(ETF)投資家からの需要回復ならびに中央銀行とアジアの個人投資家による根強い買いを受け、金価格は初めて1オンス3,000米ドルを突破しました。本稿では当社が金価格にはまだ上昇余地があると考える理由を説明します。

金は不透明な環境下で輝く

米国でトランプ政権がスタートするなか、米国経済をめぐる不透明感が高まるとともに消費者の間に不安が広がり1、米ドルが下落し(図表1)、テールリスクや地政学リスクのヘッジ手段として金の需要が高まりました。金融市場ではいつ何が起きてもおかしくありませんが、新型コロナウィルスのパンデミック(世界的な大流行)後はとりわけ様々な構造変化が起き、現在も続いています。金はこの新たなレジームの下で恩恵を受けており、世界保健機構(WHO)がパンデミックを宣言した2020年3月11日以降、98%値を上げています2

図表1:米国の経済政策不確実性指数と米ドル指数(2010~2025年)

出所︓ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、Baker, Bloom and Davis、2025年4月30日時点。主要紙が政策の不確実性に言及した頻度に基づき算出される経済政策の不確実性を示す指数で、経済学者のベイカー氏、ブルーム氏、デイビス氏が考案。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標にはなり得ません。

世界的なインフレ圧力の持続、貿易戦争、世界における米国の役割の縮小(リトレンチメント)、政府の債務負担増、大衆の声を反映した政治の動きのいずれが要因であれ、とりわけ政策や地政学、マクロ経済の先行きに関する確率分布が広がるなかでは、ボラティリティが低く、ポートフォリオの分散化に効果のあるセーフヘイブン(安全な逃避先)資産*として、金に対する需要は続くでしょう。

金の価格は2025年最初の5ヵ月間に約25%値を上げて1オンス3,300米ドルに達し、世界のマクロ資産クラスのパフォーマンス・ランキングの首位に返り咲きました3。当社は戦術的要因(たとえば、先行き不透明な貿易政策、ETFの資金フロー、リセッション[景気後退]・リスク、米連邦準備制度理事会[FRB]による緩和の可能性)ならびに構造的要因(たとえば、中央銀行の需要、ソブリン債務負担、脱ドル化のトレンド)を踏まえ、依然として中期的に金に対し強気バイアスを維持しています。

2025年に金価格の下値は、これまでの水準1オンス2,000米ドル台に代わり、新たに1オンス3,000米ドルに切り上がったとみています。世界的な貿易摩擦が緩和しても、当社の基本シナリオは金が今年1オンス3,100~3,500米ドルと記録的水準で推移すると予想しています。強気シナリオ(確率30%)では、スタグフレーションや脱ドル化の加速など、特定のマクロ経済環境の下で、金は今後6ヵ月から9ヵ月で1オンス4,000米ドルに近づくと予想しています。

「解放の日」の影響が続き金ETFの需要が増大する可能性

世界の貿易政策は金の投資家にとって特に関心のある話題ですが、興味深いのは、トランプ政権が貿易戦争を一段と拡大させた「解放の日」以前の第1四半期の金価格のリターンが1986年以来の高水準をつけた点です4。ファンダメンタルズの観点からは、金ETFに対する投資家需要は金の現物の需給バランスを引き締めます。そのため、他の需要源を制限するため、またはスクラップのリサイクル活動のインセンティブを促して供給増加につなげるために、金価格は上昇する必要があります5

金融商品への資金流入、特に西側諸国の金ETF投資家が再び市場に戻れば、2025年の金需要は記録的な伸びを示し、その結果、金価格は当社の強気シナリオである1オンス3,500~3,900米ドルまで上昇する可能性があります。

流動的な貿易政策はこうした資金フローに影響する要因です。投資家には関税措置の実施時期や最終的な税率が不明なことから、これがボラティリティを冗長しています。当社も明確な答えを持っているわけではありませんが、政府と投資家が金融、経済、通貨に対する米国の支配的立場を疑問視するなか、トランプ政権の地経学的政策が金に有利に働く可能性もあるとみています。

図表2:グローバル金ETFの月次資金フローは2025年に流入超に転換

出所:ブルームバーグ・ファイアンスL.P., ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年5月19日
米国の対中国/対世界の貿易政策ならびに地政学的見通しが引き続き極めて不透明ななか、当社は以下の5つのテーマが金価格の強気見通しの支援材料になるとみています。

1. 金ETFへの資金流入増加の可能性。2020年末から2024年半ばまでの3年半に及ぶポートフォリオ調整サイクルを経て、現在投資家には金ETFの保有を増やす十分な余地があります。年初来で大量の資金が流入しているにもかかわらず(図表2)、現物で裏付けされた金ETFによる世界全体の金保有量は2020年第4四半期のピークを依然として約20%下回っています6

2. 中国の消費者による金購入が回復。2025年第1四半期の中国の個人による金の輸入は価格高騰が響き低調でした7。しかし米国の「解放の日」以降、中国国内の金価格プレミアムは上昇しており8、国内金需要は前四半期比である程度反発すると予想されます。また中国政府は保険会社などの非伝統的セクターの金投資を押し上げるための政策も打ち出しています(以下のアジア太平洋[APAC]地域に関するセクションをご参照ください)。

3. 公的セクターの金需要は引き続き力強く推移する公算大。当社は2025年に公的セクターは世界金融危機以降16年連続で金を買い越すと予想しています。中央銀行の金需要により、金の価格急落は限定され、下値は切り上がります。また政府機関は価格に影響されることなく戦略的に金を購入する傾向があります。

4. フィアット通貨の代替資産に対する需要と世界の債務が金価格の上昇をサポート。世界の債務残高は2025年第1四半期に324兆米ドルを突破して過去最高を更新し、セクター別では政府の占める割合が約30%と、過去最高となりました(図表3)9。この状況は短期的に解消する公算は小さく、記録的な債務残高に支えられ金価格は高水準にとどまるとみられます。

5. FRBは依然として利下げ姿勢を維持。2025年には25ベーシス・ポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げが1回もしくは2回にとどまるかもしれませんが、実質金利およびデュレーション・チャネルを通じて金はおそらくさらに恩恵を受けるでしょう(ただし、その関係はここ数年それほど強くありません)。しかしマネー・マーケット・ファンド(MMF)には7兆米ドル近い資金が滞留しているため10、短期金利の低下は金のようなゼロクーポン資産の支援材料になるでしょう。

図表3:世界のセクター別債務残高は世界金融危機後、コロナ禍後に急増

出所:世界金融協会(IIF)、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年3月31日時点

米財政不安が広がるなか、利下げサイクルから政策を慎重に見送る姿勢へと転換

年央時点で、利上げが議論の俎上(そじょう)に載っていないのは明らかですが、積極的な緩和を求める声もありません。FRBは2024年12月以降利下げを実施しておらず、据え置き期間は現在のサイクルで最長となっています。歴史的に見て、金融状況が引き締まりの様相を見せ、成長が停滞し、不透明感が高まるのに伴い、FRBが政策を据え置くなかで金はアウトパフォームしています。

過去3回の景気サイクルでは、FRBが利下げサイクル中に政策据え置きを長期化した際、金は一貫してS&P500指数を大幅にアウトパフォームしています(図表4)。2002年後半から2003年半ばにかけて、当時の緩和サイクル中で最も長く政策を据え置いたこの期間に、金価格は13%上昇しましたが、S&P500指数の上昇率は4%でした11

2008年、桁外れの金融危機の最中、FRBが政策を据え置くなか、金価格は横ばいで推移する一方、S&P500指数は15%下落しました12。そしてパンデミックの直前、2019年終盤から2020年2月にかけてFRBが政策を据え置くなか、金価格は7%上昇した一方、S&P500指数は2%下落しました13

図表4:FRB政策見送り期間中の金とS&P500指数の正規化されたパフォーマンスの比較

出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.,ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年5月27日時点。注: 2002-2003の期間は2002年11月29日~2003年3月30日。2008の期間は2008年4月3日~2008年9月30日。2019-2020の期間は2019年10月31日~2020年2月28日。2024-2025の期間は2024年12月31日~2025年5月27日。日数は月次データ・ポイントの数値を反映しています。S&P500指数にはS&P 500トータルリターン指数を、金のスポット価格のリターンにはXAUを使用しています。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標にはなり得ません。

今年、これらと同様の転換点を迎えています。

昨年12月の最後の利下げ以降、金価格は25%上昇しましたが、S&P500指数は横ばいとなっています14。当初の予想より利下げ回数は少ないものの、政策の基調は依然として利下げ方向にあります。金融環境がいずれ緩和すれば、おそらく金は恩恵を受けるでしょう。現在のFRBの政策据え置きは、投資家にとって、戦略的かつ長期的な金のエクスポージャー積み増しの機会と言えるかもしれません。

米国債の格下げ、財政不透明感は金の支援材料

経済は完全雇用の状態にある中、米国では財政赤字の対国内総生産(GDP)比率が6~7%と予想され、平時ではこれまでにない状況にあります15。連邦政府赤字が34兆米ドル、年間利払い費用が1兆米ドルに迫るなか16、投資家は米国の財政政策の持続可能性について疑問を強めつつあります。

この懸念はアカデミックな議論だけでは終わりませんでした。5月16日、ムーディーズが米国を格下げし、スタンダード&プアーズ(2011年)、フィッチ・レーティングス(2023年)に続いて米国を格下げした3番目の主要格付け機関となりました。

米国債務の長期ソルベンシー(支払い能力)への信頼が損なわれたのと同様に、米国の購買力ならびに安全な逃避先というステータスへの信認も損なわれました。いずれ、こうした格付けや評価の低下は、特に海外資本が米国の財政ガバナンスの信頼性を疑問視し始めた場合、米ドルの対主要通貨の価値に圧力をかける可能性もあります。貿易戦争勃発の可能性がこうした懸念に拍車をかけています。

金には負債がなく、返済に依存せず、ポートフォリオにおける役割を利回りで正当化する必要がないため、こうした環境の下で、その安定した価値保存能力を発揮するでしょう。

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