「投資INSIDE‐OUT」

なぜ市場は米雇用統計を見続けるのか

提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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◆米雇用統計に不信感

米国の経済指標の中で特に注目度が高いのが、毎月第1金曜日に公表される雇用統計です。先般8月1日公表の最新分は、波乱含みの結果になりました。5月分と6月分が合わせて▲25万人超も下方修正されたのです。これまで堅調とみていた米雇用が、実は減速していたことが示されたわけです。気分を害したトランプ大統領が労働統計局のトップを解任するという異例の展開まで起きました。市場関係者の間でも、「今後も雇用統計に注目し続けて良いのだろうか?」という不信感が浮かび上がりました。

◆米雇用統計が重要視される5つの理由

日本でも失業率などの雇用指標は毎月公表されています。ただ、短観など他指標に比べると市場での注目度は劣る印象です。米国で雇用統計がここまで重視されるのはなぜでしょうか?5つの理由があると考えられます。

1点目は、景気と雇用の連動性の強さです。景気の悪化局面で賃金を抑えて雇用を守る日本企業に対し、米国の企業は解雇を躊躇しない傾向があるとされます。米国では景気の良し悪しが雇用統計に直ちに現れやすいわけです。

2点目は、個人消費の重要性です。米経済はGDP(国内総生産)に占める個人消費の割合が約7割と、日本など(5割強)に比べて高いのが特徴です。雇用はその個人消費の裏付けになります。

3点目は、金融政策への影響力です。FRB(米連邦準備理事会)は、物価の安定と共に「雇用の最大化」を政策目標に掲げています。物価安定に軸足を置く日銀やECB(欧州中央銀行)に比べて、FRBの政策判断に雇用動向が直結しやすい傾向があります。

4点目は、速報性です。例えば今月だと8月1日に7月分の統計が公表されました。近年でこそ、最新の高頻度データ(カード決済、交通量、検索トレンドなど)を用いたオルタナティブデータが使用可能になっていますが、伝統的に雇用統計は他の統計よりも早く実態を掴めるデータと考えられてきました。

最後の5点目は、皆が注目していることが挙げられます。市場関係者が共通して注目する指標だからこそ、市場価格が結果に敏感に反応し、さらに注目が集まる、という自己実現的な循環が生じています。

◆速報性とのトレードオフ

今回は、4点目に挙げた速報性が裏目に出た面がありました。統計の基になる調査の回答率は、長年にわたって低下しており、この10年間で、家計調査で約9割→7割、事業所調査は6割→4割へ落ち込んでいるとのことです。発表元の米労働省は、以前回答した主要な個人が現場ではなく在宅勤務をするようになったことに触れています。集まった回答が少ない分、発表元は推計やモデルで補う必要があります。時間をかけて回答が集まるのを待てば精度は改善しますが、それを待たずに公表するのが雇用統計の宿命と言えるでしょう。

◆それでも雇用統計重視は不変

では今後、米雇用統計の影響力は低下するのでしょうか。答えは「ノー」だと思います。なぜなら、5点目の理由で挙げたように、皆が注目する限り、市場が少なくとも短期的には雇用統計に敏感に反応するとみられるからです。市場関係者は、雇用統計が万能でないことを再確認しましたが、それが共通の「拠り所」であることに変わりはないでしょう。市場の動きを見る上で、「何が正しいか」と同時に「何が正しいと人々が考えているか」という視点が重要である点が今後再確認されていくのではないでしょうか。

 後に出る改定や他の関連指標を十分注視する姿勢を持ちつつも、毎月の雇用統計の予想・分析をしっかり積み重ねていくことは引き続き重要でしょう。

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(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)

著者/ライター
稲留 克俊
シニアストラテジスト
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