金、輝きを増す深~いわけ
日経記事で学ぶ~幸福寿命を延ばす投資術(13)
提供元:日本経済新聞社
本コラムは東証マネ部!で連載した「日経記事でマネートレーニング」の続編で、投資や資産形成の幅広いスキルや基礎的なノウハウの習熟を目的としています。拙著「幸福寿命を延ばすマネーの新常識」(日本経済新聞出版刊)を大幅に再構成・加筆し、日経電子版の注目記事なども織り交ぜつつ、総合的な金融リテラシーの底上げを目指します。
日本経済新聞社が9月26,27日にJPX・東証グループと共催した「日経・東証IRフェア2025」は大盛況で幕を閉じました。私も「日経ヴェリタス」というブースで参加し、来場者を対象にいくつかセミナーを実施したのですが、来場者の多くから「金って投資対象としてどうなんでしょうか?」「金よりプラチナのほうを買ったほうがいい?」という質問を受けました。
金価格はいまものすごい勢いで上昇し、最高値を更新中です。そういう事情もあって株式投資家の間でも話題なのでしょう。この金、じつは若い世代にもおすすめできる資産なのです。
というわけで、今回は金=ゴールドについての知識を深めてみましょう。
仰天!長期上昇率は日米株式しのぐ
国内の金価格が9月下旬、初めて1グラム2万円を突破しました。9月29日付日経電子版によると、東京・銀座の田中貴金属工業の直営店「ギンザタナカ銀座本店」には、開店前から数十人が列を作り、従業員が整理券を配るなど対応に追われたといいます。金は長い年月をかけて緩やかに上がってきてはいるのですが、上昇ピッチは足元、異常に早くなっており、この2年間でちょうど2倍になりました。
グラフはリーマン・ショックが起こった2008年半ばからおよそ17年間の株と金の推移です。株式は日経平均株価とダウ工業株30種平均を、金は代表的な金ETF(上場投資信託)である「SPDRゴールド・シェア」(国際金価格に連動)を選び、値動きを比べてみました。
作ってみて驚いたのですが、金が日米株を上回っていました。これ、発見かもしれないですよ~。
この背景を学ぶ前に、金の値段の決まり方を知っておきましょう。金は日本のお店が自由に決めることはできません。ニューヨーク(NY)など海外取引所に先物が上場しており、ここでの取引価格が指標になります。この値段に為替レートを使って円建てに置き直したのが日本での金小売価格です。日本で売買する金の値段は「NY価格×円相場」だと覚えておきましょう。
6つの「複合的性質」が輝きの源
いよいよ、金の輝きの謎を解いていきましょう。私は今から34年前の1991年に編集局商品部に移り、国際商品(コモディティー)や貴金属の担当になりました。貴金属=プレシャル・メタルとは金、プラチナ(白金)、銀などを指します。そして金の取材を続けるうちに金にはいくつもの「顔」があるということがわかってきました。
1つ目は実物商品としての魅力です。ここは説明の必要はないでしょう。歴史の学習でわかるように古くから宝飾品としての需要があるわけで、近年は人口が増え、そして各国の所得水準が上がるほどアクセサリーとしての金需要も増えています。
銅や鉄鉱石、原油など他の一次産品と異なり、金の採掘量は限られる点も特徴です。地球深部にはあるのでしょうけど、コストがかかって掘削は無理です。供給が常にひっ迫しているような状況で、価格の安定性につながっています。
通常、金属は長い年月で劣化します。鉄の赤さびのようなものです。しかし、金は腐食しません。大昔、化学で学んだ記憶がありますが、苦手な分野なので詳解はご勘弁を。というわけで、時間がたっても価値を保存できるという特別な性質を有します。
このほか、戦争や災害など環境が急変したときには安全資産としての魅力があります。その国の信用力に依存しない独自の信用性があるともいえます。たとえば、ドルは米国の通貨、円は日本の通貨、ユーロは欧州圏の通貨ですが、金は無国籍の通貨といえるでしょう。最近では中国が上海協力機構を作り、人民元を軸に独自の決済圏を構築する動きが出ていますが、いわゆる国際通貨分断の局面ではますます金の魅力が高まるわけです。
最後に流動性を挙げました。流動性とは現金への換えやすさ、換金性です。ダイヤモンドなど宝石は鑑定をして相対交渉という面倒な作業を経ますが、金は値段が決まっているのでだいたい世界共通どこでも同じ水準で売買できます。
このように実に多面的複合的な性質を併せ持つことが金の価値を、その魅力を押し上げているわけです。
金の属性、性質をマーケットの視点でいうとどうでしょうか?
株式、債券、為替を3大市場とすると、この点でも金はすべての役割を併せ持つといえます。株式が上がるときはたいてい景況感が改善し、個人所得が増えているのでアクセサリー・宝飾品需要は増加します。金利や物価も上がるのでインフレでも価値が落ちない金がやはり買われやすくなります。
逆に株が下がると、それはそれで安全資産たる金にマネーがシフトします。為替はすでに説明したとおりで通貨の価値が下がる(円安など)と金は代替通貨としての魅力が増してきます。
30年前ぐらいまではドルが上がると金が下がり、ドルが下がると金が上がるというように米ドルとの反相関が鮮明でしたが、度重なる紛争で地政学リスクが高まり、ドルの基軸通貨が揺らぐ中で金の魅力が相対的に高まってきています。
私自身、年金ポートフォリオには金価格に連動する上場投資信託(ETF)を一定の割合で組み入れています。今年春のトランプ関税で株がショック安に陥ったときは金が安全資産として上昇し、早速私のポートフォリオを救ってくれました。
図のグラフは年初来のパフォーマンスですが、長期でなく短期でみても金の運用成績は抜けています。短期売買ならともかく、株式のように専門的な勉強はいらないし、銘柄がたった1種類しかないなど金は投資の初心者や未経験者にも易しい商品です。50年保有していても金の財宝としての価値は変わらないでしょう。
結論としては若い方も、年配の方の年金資産でも金を少し保有するのは有効ではないか、ということです。ちなみに私は20代のころは金地金(バー=延べ棒)を200g持っていました。ちょっと高級なシルク巾着に入っていて、時折取り出しては鈍い深みのある輝きを眺めてはニタリとしていたかなと思います。
まあ、それはどうでもいいのですがなんと当時は1g=1300円。26万円ほどの価値しかありませんでした。住宅ローンの返済原資をねん出するため、なんのためらいもなく5年ほどで売りました。いま持っていたら400万円!・・・ま、悔いはありません(笑)
言われてみればたしかに……本コーナーではマネーに関する気づきや新しい常識を解説していきます。拙著(下記リンク)を副教材として併読していただけると高いリテラシーが身につきます。本ブログの参考になる日経電子版記事を紹介しておきます。
【参考記事】
金1グラム2万円を突破 高値でも購入、インフレ下で資産防衛(日経電子版 2025年9月29日)
プラザ合意40年、金に群がる中銀 忍び寄る「通貨Gゼロ」の世界(日経電子版 2025年9月22日)