2000年以降の金と円: ヘッジの有効性に関する過去データからの洞察

提供元:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント

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金は長らく個人や各国政府により貴金属として評価され、今日も使用されている最も古い交換手段および価値保存手段の一つです。世界市場において、金は米ドル建てで取引されるため、金と米ドルの間にはしばしば逆相関の関係が生じます。

日本など米国外の投資家にとっては、それが為替リスクをもたらします。従って、日本の投資家による金投資のリターンは、米ドル建ての金価格と米ドル・円為替レートの変動という2つの主要因に影響されます。

日本の投資家の視点から金と円の関係を探るため、当社は過去25年間のデータを検証し、それらの動向が為替リスクヘッジに関する日本の投資家の意思決定にどう影響するのかを分析しました。本分析では2000年1月から2025年7月までの307カ月分の月次データを用い、以下の4系列の推移を捉えています。すなわち、金の米ドル建てリターン、米ドル・円レートの変動、為替ヘッジなしの金投資の円建てリターン、為替ヘッジありの金投資の円建てリターン(ヘッジのキャリーコストを控除後)です。

当社の分析が2000年から始まる理由について疑問が生じるかもしれません。その根拠は、1999年9月の中央銀行金協定(CBGA)後に始まった現代の金市場の体制に整合させるためです。同協定は、公的部門による金の売却に上限を設け、金の貸出とデリバティブの拡大を抑制することで、金価格を押し下げていた1990年代の過剰な売却とデリバティブによる見せかけの供給を解消しました。

その後もCBGAは更新され、透明性が向上した上に、2000年代初めの金ETFの導入と2010年代の中央銀行による持続的な買い越しが金市場をさらに変容させていきました。加えて、2000年以降の時代は現代の金融政策体制、技術進歩、市場構成の変化を反映しています。2000年以降のデータを使用することで、両立しえない体制が混在するのを避け、現在の価格決定要因と市場ダイナミクスをより適切に表す関係性を示すことができます。

金と円はどう連動するのか

データは月次を4つの相場局面(レジーム)に分類できます:

1. 金(米ドル建て):高(+)と円:安(+)
2. 金(米ドル建て):高(+)と円:高(-)
3. 金(米ドル建て):安(-)と円:安(+)
4. 金(米ドル建て):安(-)と円:高(-)

図表1に示すように、2000年以降に最も高い頻度で出現しているレジームは「金:高(+)と 円:高(-)」(レジーム2)であり、検証月の約35%を占めています。2番目に頻度が高い「金:安(-)と 円:安(+)」(レジーム3)は検証月の約30%で出現しています。1 これらのパターンは、金と円がしばしば同方向に動くことを示しており、これは市場の混乱期や「リスクオフ」心理が高まる時期に、金と円がともにセーフヘイブン(逃避先)資産としての役割を果たすことを反映しています。

しかし、円建て金投資のリターンという観点では、金と円は通常、逆相関の関係を有します。すなわち、金価格が上昇(リターンにとって+)する際には円高(-)、金価格が下落(-)する際には円安(+)となることが一般的です。従って、為替ヘッジなしでも、これらの相場局面では両者が相殺し合う傾向にあります。

図表2に示すように、過去のデータから、ヘッジの有効性がレジームによって大きく異なることは明らかであり、特定のレジームではヘッジの必要性が低くなる一方、他のレジームではリスク管理のためにヘッジがより重要となる可能性があります。特に注目すべきは、米ドル建て金価格の平均月次リターンが0.9%だったのに対し、米ドル・円レートのリターンはわずか0.16%だったことです。2

これは、円ベースでみた金投資のパフォーマンスが主に米ドル建て金価格の変化によって決定され、米ドル・円レートの変動は二次的な役割しか果たさないことを明確に示しています。図表3はこの関係を裏付けており、全てのレジームにおいて金投資のリターンの構成要素として、金価格のリターンが一貫して米ドル・円のリターンを上回っています。

「金:高(+)と円:安(+)」(レジーム1)時には、ヘッジなしのリターンは+4.86%に急上昇し、ヘッジありのリターン(+2.73%)を大幅に上回っています。逆に、「金:高(+)と 円:高(-)」(レジーム2)の下では、ヘッジにより為替変動のマイナスの影響が緩和されることから、ヘッジありのリターンがヘッジなしのリターンを上回っています。

こうしたレジームの月では、ヘッジありリターンが平均+4.56%だったのに対し、円高によりヘッジなしリターンは+2.38%に低下しています。「金:安(-)と円:安(+)」(レジーム3)では、ヘッジなしの円建て金投資が有利な為替効果を享受し、ヘッジありのリターンを平均2.55%上回っています。これら3つのレジームは分析事例の大半を占め、その発生確率は合計で87%となっています。3

一方、不利なレジームである「金:安(-)と円:高(-)」(レジーム4)の間は、為替変動により、ヘッジを行っていない日本の投資家にとっては損失が大きく増幅される可能性があります。それらの月では、ヘッジなしの円建て金投資の平均リターンは‐4.8%となっている一方、ヘッジありでは約‐3.5%と、ドローダウンが約1.3%ポイント軽減されています(損失は27%縮小)。4

この不利なシナリオは全体の検証月の13%でしか発生していませんが、そうした状況ではヘッジによるプロテクションが特に有益であることが証明されています。ヘッジは、円高の影響を効果的に打ち消し、金価格の下落による損失がさらに増幅されるのを防ぎ、ドローダウンとボラティリティの両方を低減します。

例えば、円建ての金投資家にとってパフォーマンスが最も悪かった2008年10月には、ヘッジなしのリターンが23.46%の下落だった一方、ヘッジありのリターンは17.84%の下落にとどまり、5.6%ポイントの差がつき(損失は24%縮小)、ヘッジは投資家が市場の混乱期をより上手く乗り切る助けとなりました。5

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