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【格言かぶオプコラム】第7回:二度に買うべし二度に売るべし
提供元:株式会社シンプレクス・インスティテュート
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【かぶオプコラム】
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【格言かぶオプコラム】第6回:押目待ちの押目なし | 東証マネ部!
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今回は、江戸時代の相場哲学書である牛田権三郎の『三猿金泉秘録(さんえんきんせんひろく)』に記された格言をご紹介します。『三猿金泉秘録』は、天才相場師・本間宗久の『宗久翁秘録』と並び称され、現代にも通じる投資の教科書として知られています。その中に登場するのが、次の言葉です。
「買い米を一度に買うは無分別。二度に買うべし、二度に売るべし。」
この格言は、「買いだ」と思っても一度にすべての資金を投入してはならない、という教えです。まずは資金の一部で「打診買い」を行い、実際に利益が出て上昇傾向を確認できた段階で、もう一度資金を投じる―つまり、相場の流れを確かめながら慎重に動くことを勧めています。
たとえどんなに相場観に自信があっても、相場が思い通りに動く保証はありません。だからこそ、買いでも売りでも、まずは小さく動いてみる。そして、自分の判断が正しいと確信できたら、二度目の売買で本格的に動けばよいのです。石橋を叩いて渡るような慎重さこそが、相場でのリスク管理の第一歩。この格言には、そんな普遍的な投資哲学が込められています。
この考え方を、かぶオプ投資にも応用してみましょう。保有株が値上がりしてきたとき、株を売るタイミングを判断するのはいつも悩ましいものです。そんなときに役立つのが、カバード・コール(カバコ)を二度に分けて行うという考え方です。
たとえば、株を300株持っている場合、まずは「そろそろ売ってもいい」と思う水準で100株分だけカバード・コールを行います。その後、株価がさらに上昇してきたら、残りの200株分を追加でカバード・コールします。その際、株価の上昇に合わせて行使価格を引き上げ、たとえば1回目は行使価格1,000円、2回目は1,200円というように段階的に売ってゆきます。
このように複数回に分けてコールを売ることで、1回目のカバード・コールでは確実な利益を確定しつつ、2回目では株価の上昇分を活かしてもう一段上の利益を狙うことができます。「もう少し待てばよかった」という後悔を減らしながら、相場の流れに合わせて柔軟に対応できるのです。
投資の世界では「分散」が基本とされますが、資産だけでなくタイミングや行使価格を分散することも立派なリスク管理です。
実際の取引例をみてみましょう。たとえば、2025年9月時点で三菱商事(8058)の株を300株保有していたとします。株価は8月以降上昇基調を続け、8月上旬に3,000円台だった株価が9月上旬には3,400円を超えてきました。そこで、まず9月18日に行使価格3,500円の10月限コールを1枚(100株分)54円で売却します。その日の株価終値は3,505円でした。
翌日、9月19日も株価はさらに上昇し、一時3,600円を超えました。そこで新たに行使価格3,700円の10月限コールを1枚あたり36円で2枚(200株分)売却します。
その結果、10月9日の取引最終日には株価終値が3,603円となり、最初に売った行使価格3,500円のコールは行使されて株が100株売却され、一方で行使価格3,700円のコールは権利放棄となり、プレミアムが利益として残りました。
ここで、株の取得単価を3,100円と仮定して損益を比較してみましょう。
1.カバード・コールなし
(3,603−3,100)×300=150,900円 (評価益)
2.行使価格3,500円のコールを一度に3枚売った場合
(3,500−3,100)×300+54×300=136,200円 (実現益)
3.2回に分けてカバード・コールを行った場合
(3,500−3,100)×100+54×100+36×200=52,600円 の実現益と
(3,603−3,100)×200=100,600円 の評価益
合計 153,200円 の利益
このように、二度に分けて取引することで、利益の合計はコールをすべて同時に売った場合よりも、またカバード・コールをしなかった場合よりも大きくなりました。複数回に分けて取引することで、確実に利益を確保しつつ、相場の勢いを活かし、さらにコールのプレミアムという時間価値も得ることができたのです。
この「二度に分ける」という発想は、ターゲット・バイイング(ターバイ)にも当てはまります。ターバイは株価が下がってきたところを狙ってプットを売る戦略ですが、自分がプットを売ったタイミングがベストとは限りません。もしかすると、翌週にはさらに株価が下がり、より高いプレミアムでプットを売れるチャンスが訪れるかもしれません。
そこで一度に全額分のプットを売るのではなく、たとえば今週は行使価格900円、来週は行使価格800円というように、タイミングと行使価格を分散して取引することで、相場の変動を収益に取り込むことができます。一発勝負ではなく、時間を分けてリスクをならす。これもまた、「二度に買うべし」の精神です。
ターゲット・バイイングで「二度に買う」、カバード・コールで「二度に売る」。こうしてタイミングを分けて取引することで、自然と時間の分散ができるだけでなく、売買ごとに行使価格も分散されていきます。つまり、「どの行使価格を選べばいいんだろう?」と悩む必要もなくなるわけです。一度にすべてを決めるのではなく、タイミングを分けて取引することで、価格のブレをならしながら最適なポジションが形づくられてゆくのです。これは、相場の波にうまく乗るための賢い投資術といえるでしょう。
「二度に買うべし、二度に売るべし」
短い一節ながら、その言葉の奥には、焦らず、慌てず、少しずつリスクを分散し、時間を味方につけるという投資の本質が読み解けます。これこそが、相場と長くつきあっていくための一番確かな方法なのかもしれません。読み返すほどに、その深さがじんわりと感じられる一節です。
次回も、時代を超えて語り継がれる相場格言を手がかりに、現代の株式投資に活かせる「かぶオプ」の知恵をお届けします。
(提供元)株式会社シンプレクス・インスティテュート
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