まだ見ぬ将来世代の利益を考慮した意思決定「フューチャー・デザイン」後編

導入事例からひもとく「フューチャー・デザイン」の効果

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未来から現在を眺めると、研究開発の方向性も変わる

「フューチャー・デザイン」は自治体だけでなく、企業での導入も始まっている。その先陣を切ったのが、総合水エンジニアリング会社のオルガノ。2019年からの3年間にわたって原研究室と共同研究を行い、『仮想将来世代』の視点からR&D(研究開発)戦略が検討された。

画像提供/大阪大学 原圭史郎教授
オルガノ社員によるR&D戦略検討の実践の様子。

「この実践では、参加者員の全員が、現世代の視点での議論と『仮想将来世代』の視点での議論の両方を行いました。その結果として、各世代の視点で出てくるアイデアが異なっただけでなく、R&D戦略の可否などを判断する基準も変わってきたのです」

参加者へ実施したアンケート調査の結果に基づくと、現世代視点のときは「コスト」「他社との差別化」といった項目の重要度が高かったが、『仮想将来世代』の視点になるとそれらの重要度が下がったのだ。

「『仮想将来世代』視点では、現世代の人が直接影響を受けるような基準よりも、気候変動などの環境問題をはじめ、長期的に取り組むべき社会課題への貢献といった観点の重要度が高まったのかもしれません。結果的に、出てくるアイデアも、これまでは会社として検討されていなかったイノベーティブなものにシフトしていったのです。一般的に『環境問題などの社会的考慮とイノベーションにつながる独創的発想の両立』はあまり想定されていないと思いますが、将来世代の視点を取り入れることで自ずと社会課題に対する貢献度が重視されるとともに、独創性の高まりが起きるのだと考えられます」

その後も、オルガノでは継続的に「フューチャー・デザイン」が実践され、R&D戦略だけでなく社員研修などにも応用されているそう。

「現在から未来を眺めているだけだと新たな視点で発想することは難しいのですが、『仮想将来世代』の視点に立てるような仕組みを取り入れることで、将来世代に対する共感を高め、意思決定の基準やアイデアが変わって独創性も高まるようです。未来に対する責任意識のようなものも高まり、未来のことを自分たちが考えていくんだというモチベーションも強くなるといえそうです。公共政策の分野だけでなく、産業界のイノベーションの新たな方向性もデザインできる可能性があるのではないかと考えています」

「フューチャー・デザイン」普及のポイントは“教育”

社会の持続可能性を高めると考えられている「フューチャー・デザイン」だが、導入している自治体や政府機関、企業はまだ限られている。仕組みを普及させていくには、ひとつのポイントがあるという。

「『コンセプトはわかるけれど、どのようなステップを踏めば仮想将来世代の視点を取得できるのかわからない』という声をいただくことがあります。導入を検討されている方々には、我々が議論の進め方や条件、理論的な観点を学術研究に基づいて説明していくため、緊密に連携を行っています。今後もサイエンスに基づく実践を進めるため、産学官連携が必要になると考えています。研究を進めている我々がきちんと『フューチャー・デザイン』の効果や仕組みを伝え、導入事例が増えていき、社会全体として『フューチャー・デザイン』の実践が広がればいいなと考えています」

教育の場でも「フューチャー・デザイン」の考え方や仕組みを伝えていくことで、社会全体が変わっていくのではないかと考えているそう。

「大阪大学の大学院工学研究科では『フューチャー・デザイン』に関する講義を設けているのですが、学生のうちから『仮想将来世代』の視点に触れ、長期的な思考を実践する人が増えていくと、持続可能性の観点から未来のことを考えられる人材がさまざまな組織や部門で活躍することになります。いずれは矢巾町のように、多くの自治体や企業で『未来戦略課』が設置されるかもしれません。そうなると将来世代の視点で考えることが当たり前になり、社会の持続可能性が高まるでしょう。そのためにも、『フューチャー・デザイン』の教育は大切だと考えています」

「フューチャー・デザイン」は政策立案や事業開発に限らず、投資においても応用できる仕組みだという。

「非財務情報である環境・社会・ガバナンスの取り組みを考慮する『ESG投資』にも関連する部分といえますが、『仮想将来世代』の視点でいまを眺める仕組みを取り入れることで、投資判断の基準が変わるでしょう。また、企業や業界における将来のリスクや事業の可能性といったものがよりクリアに、そして多元的に見えてくるといったことも考えられるので、中長期的な投資に示唆を持つのではないかと感じています」

これからの社会に変革をもたらすかもしれない「フューチャー・デザイン」。自治体や企業の取り組みを見ていくうえでも、投資判断をするうえでも、重要な指標のひとつとなりそうだ。

(取材・文/有竹亮介)

お話を伺った方
原 圭史郎
大阪大学大学院工学研究科教授。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。大阪大学環境イノベーションデザインセンター等を経て、2016年に大阪大学大学院工学研究科准教授に就任。2019年10月より現職。2020年度より同研究科附属フューチャーイノベーションセンター副センター長、2021年度より同研究科テクノアリーナ最先端研究拠点部門「フューチャー・デザイン革新拠点」拠点長。「フューチャー・デザイン」に関する研究と産学官の連携を通じた実践を進めている。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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