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【第1回】IPOを目指して。アストロスケールホールディングス、激動の13年

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夜空に浮かぶのは、今や美しい星々だけではない。人類が半世紀以上にわたって宇宙へ進出した結果、そこには宇宙デブリ(ゴミ)が猛烈な速度で飛び交い、現代生活を支える衛星通信や気象観測の未来を脅かしている。アストロスケールホールディングスは、この“負の遺産”に真正面から挑み、「宇宙のロードサービス」というインフラ事業の確立を目指す民間企業だ。前代未聞の挑戦は、IRの分野も同じであった。

「宇宙のゴミ(デブリ)を除去する」。2013年の創業当時、そのミッションを耳にした人々の多くは、夢物語と捉えたかもしれない。しかしそれから10年強で、アストロスケールは、世界初のデブリ除去実証に成功し、累計1,050億円を超える資金を資本市場から引き出し、日本を代表する宇宙関連企業のひとつとなった。この壮大な物語をファイナンスの側面から支えてきたのが、2021年にCFOに就任し、2026年4月から副社長を務める松山宜弘だ。

理系から金融業界へ。異色キャリアのCFO

松山のキャリアは、一見すると宇宙とは対極にあるように見える。大学では土木工学を専攻し、橋梁や道路といった社会インフラの基礎を学んだ。卒業後は一転して金融界へ。メリルリンチ、バークレイズ、ゴールドマン・サックスなど外資系投資銀行で13年にわたり、資本主義の最前線で「お金の流れ」を見てきた。しかし、30代半ばを迎え、心境に変化が訪れる。

松山「資本主義においてお金を流す仕事は極めて重要ですが、自分自身の手でもっと『リアルな経営』に携わりたいという思いが強くなりました。世の中に様々なディスラプション(創造的破壊)が起きる中で、何が最後に残るのかを考えたとき、経営という営みそのものはなくならないだろうと。そこで、ベンチャーのCFOという道を探し始めました」

かくして松山は転職サービスに登録。驚くことに、業種を絞らず52社もの企業を検討し、その中で多くの経営陣と面談を重ねたという。最後に出会ったのが、アストロスケールだった。

松山「それまで拝見した51社は、日本市場に特化したビジネスモデルが多かったのですが、アストロスケールは最初からグローバル展開を見据えており、テーマも宇宙という全く新しいものでした。私自身、海外経験があり、理系出身でもあったので、直感的に『これは面白い』と感じたんです。何より、創業者でCEOの岡田光信と話した際、これまで会ってきた経営者たちとは明らかに違う熱量を感じました」

当時の面談メモに、松山はこう記している。「これは必ず人類にとって必要なビジネスになる。宇宙空間での活動が拡大する以上、故障した衛星の撤去や点検、燃料補給といった宇宙のロードサービスは不可欠なインフラになる」。松山は入社を決意。2021年12月、同社のCFOに就任した。

「RPO」というコア技術を武器に、世界を網羅する

アストロスケールの事業は、単なる「宇宙の掃除屋」にとどまらない。その核心となる技術は、既存衛星に安全に接近し、保守・点検を行う「RPO(ランデブー・近接運用)」にある。すでに2021年にはミッション「ELSA-d」で模擬デブリの捕獲を、2024年には、「ADRAS-J」で、本物のデブリへの接近・撮影を世界で初めて成功させた。

松山「デブリ除去という出発点から、私が入社した頃にはすでに事業領域が広がっていました。除去に必要な要素技術、つまり『打ち上げて、安全に対象物に接近し、捕獲する』というプロセスにおいて、最も難しいのは接近することです。これができれば、手を伸ばして捕まえるだけでなく、写真を撮り、点検し、燃料を補給するといった様々なサービスに横展開できます。この接近技術こそが、あらゆる軌道上サービスのプラットフォームになるのです」

拠点展開も、極めて戦略的だ。シンガポールで設立後、日本へ本社機能を移し、さらに英、仏、米、イスラエルへと拠点を拡大。これはランダムな拡張ではなく、西側諸国の宇宙予算上位国を網羅するための緻密な設計に基づいている。

松山「拠点展開は西側主要国の宇宙予算トップ10を上から順に押さえています。各国の政府予算や安全保障上のニーズを確実に取り込むための体制です。一方、なぜ日本にヘッドクォーターを置いたかという点は、日本には世界屈指のサプライチェーンがあるからです。衛星を作るための部品を発注すればすぐに届く、そして優秀なエンジニアが揃っている。キャッシュに制約があるスタートアップにとって、日本は有利に開発を進められる、世界でも稀有な拠点なのです」

400億円超調達の信頼と説得力。そして上場という「実利」

上場前に累計400億円を超える資金を調達したアストロスケール。初期のフェーズではビジョンを語ることで投資家を惹きつけたが、次第にその手法は変化していったという。

松山「最初期はとにかく大きなビジョンを売る、いわば『大風呂敷』を広げることが重要でした。宇宙のロードサービスになり、グローバルスタンダードを獲るんだという夢に人とお金が集まります。しかし、シリーズを重ねるごとに、投資家の目は厳しくなります。毎回、着実に技術実証が進んでいるか、契約が取れているかという『実績』を証明し続けなければなりません。2023年に米宇宙軍からのミッションを受注したことや、日本政府のスタートアップ支援制度(SBIR)に採択されたことは、ビジョンが現実のビジネスに変わる大きな転機となりました」

そして2024年6月、同社は東証グロース市場への上場を果たす。世界の宇宙ベンチャーの多くはアメリカのナスダックでの上場を目指すケースが多いが、アストロスケールは違った。

松山「海外市場、特に米国では時価総額が一定規模以上(2〜3億ドル程度)ないと流動性が確保できず、放置されてしまうリスクがあります。一方で、当時の日本では、時価総額1,000億〜2,000億円規模の未上場企業への資金の出し手が少ないという空白地帯(ファンディングギャップ)がありました。上場市場を活用して機動的に、かつグローバルに資金を募る方が、事業を最速で前進させるために合理的だと判断したのです。結果として、上場時と上場後の海外公募、第三者割当等を合わせ、未上場時の累計調達額を超える600億円以上を上場市場から得ることができました」

金融のプロフェッショナルが飛び込んだ宇宙という未知の分野で、確かな実績をもたらした。だが、上場はゴールではない。市場の厳しい荒波の中で、投資家との「対話」という新しい挑戦が始まろうとしていた。

(第2回に続く)

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