こちらIR!

こちらIR!〜会社と投資家をつなぐ物語〜

【第2回】いざ上場。アストロスケールが行った投資家とのコミュニケーション

TAGS.

2024年5月。東証グロース市場への上場を果たしたアストロスケールホールディングスの社内は、大きな安堵感に包まれた。しかし、その余韻に浸る間もなく、上場企業としての現実が経営陣を襲う。副社長でCFOの松山宜弘はこう振り返る。

松山「今だから白状しますが、上場直後のIR体制は、決して万全ではありませんでした。上場準備は過酷な作業で、目の前の課題を突破することに全てのリソースを割いてしまい、上場した後に投資家とどう継続的に向き合っていくか、という視点が疎かになっていました。上場後最初の決算発表資料を見返すと、今でも目を覆いたくなるような出来栄えで……。IRに対してもっと早くから投資しておくべきだったと痛感しました」

ディープテック企業にとって、IRは単なる情報開示ではない。目に見えない未来の価値を、現在の株価にどう反映させるか。その“翻訳”を担う専門家が、2025年6月に入社した河野祥子である。

IR経験者が驚いた、アストロスケール流のIR

河野は、ベンチャーキャピタルでの経験や、ITベンチャーでのIR専任部署立ち上げを経験してきた経歴を持つ。アストロスケールに飛び込んだ理由は、単なる宇宙への憧れだけではなかったという。

河野「特定の会社のIRの専門家ではなく、『IRという職能の専門家』になりたいという思いを抱いていました。前職のITベンチャーでもIRの仕事に大きなやりがいを感じていましたが、まったく違う業界でも自分の経験が通用するのかを試したかったんです。アストロスケールは、IRによって企業価値に大きくレバレッジをかけられる会社だと感じました。壮大な事業を市場にどう伝え、理解してもらうか。そこに挑めるのはIR担当としてやりがいに溢れていると思いました」

河野が加わったことで、同社のIRは組織的な形を整え始める。しかし、アストロスケールには、一般的な上場企業とは異なるIRの流儀があった。それは、経営陣による強いオーナーシップだ。

松山「うちの会社では、決算説明資料や投資家向けのプレゼン資料を、社長の岡田や私が自ら作成することが多々あります。IR担当者に作ってもらった資料を読み上げるだけでは自分の言葉になりませんし、何より投資家に熱意が伝わりません。河野には、私たちが自分の言葉で詰め込んだメッセージを、市場の文脈に合わせて磨き上げ、翻訳してもらう役割を担ってもらっています。経営陣が資料作成の泥臭い部分まで関与するからこそ、説明に責任が生まれるのだと考えています」

河野「ここまで経営陣が深く関わるのかと、最初は驚きました。でも、経営者の生の言葉を最も近くで聞き、それを資料として形にしていく過程は非常にエキサイティングです。投資家が何を知りたがっているか、今の説明のどこに違和感があるか。それを経営陣にフィードバックし、一緒に資料を磨き上げていくことが、私の役割です」

東証の上場審査を通じて見えた、成長企業に求められる視点

IR体制の構築において、意外な追い風となったのが、東証による上場審査のプロセスだったという。

松山「宇宙ビジネス特有のリスクは何か、それを投資家にどう正しく伝えるべきか。東証の上場審査でいただいた厳しくも鋭い指摘の数々は、結果的に上場後の適時開示やIRの姿勢を形作る上で、非常に貴重なアドバイスとなりました。形式的な審査ではなく、投資家保護と企業成長を両立させるための議論ができたことは、当社の財産になっています」

松山は、IRを単なる管理業務や広報活動とは捉えていない。それは、自分たちの経営が正しい方向に進んでいるかを確かめるための羅針盤のような機能もあるという。

松山「IRの直接的な効果を測るのは難しいものです。IRを頑張ったからといって、すぐに株価が上がるわけではありません。事業がうまくいかなければ、株価が下がるのは当然です。しかし、IRを通じて投資家と面談を重ねることは、最高のリアリティチェックになります。外部の厳しい目から見て、自分たちの戦略がどう映っているのか。そのフィードバックを経営会議に持ち込み、次の意思決定に活かす。市場との対話を通じて、自分たちの経営を常にアップデートし続けることが大切です」

河野「IRの仕事は、自分が心から素晴らしいと信じられる会社を、世の中に伝えていくことです。足元の業績が厳しいときでも、長期的な価値を信じて支えてくれる投資家がいます。そうした方々との信頼関係を築けたとき、この仕事の醍醐味を感じます」

上場という荒波を乗り越え、アストロスケールのIRは経営の核に組み込まれていった。しかし、彼らが向き合う相手は投資家だけではない。数十年単位で進む「宇宙の時間軸」と、数ヶ月単位で動く「市場の時間軸」。この二つをどう繋ぎ合わせるか。挑戦はさらに続いていく。

(第3回に続く)

【第1回】IPOを目指して。アストロスケールホールディングス、激動の13年

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード