こちらIR!〜会社と投資家をつなぐ物語〜
【第3回】宇宙との対話、投資家との対話。アストロスケール、IRのこれから
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「宇宙開発の時間軸」と「資本市場の時間軸」。この二つの異なる時計を同期させることは、アストロスケールホールディングスが直面しているIR上の大きな挑戦だ。衛星一つを打ち上げるのに数年、事業が収益化するまでに十年という単位で進むのが宇宙プロジェクト。一方で、上場企業には四半期ごとの業績開示と、短期的な成長への期待が寄せられる。この巨大なギャップを埋めるため、同社が掲げた指針は透明性(トランスペアレンシー)の徹底だった。
市場に誠実で、真摯に説明する。投資家とのコミュニケーション
松山「悪いニュースこそ先送りしないという鉄則があります。どうせ後でわかるのですから、ダメなことはさっさと言ったほうがいい。隠したり誤魔化したりしても、市場との信頼関係が壊れるだけです。実際に、当社は業績予想の下方修正を公表しましたが、その際もなぜ想定と違ったのか、原因と対策をセットで、誠実に説明し尽くすことに努めました」
副社長でCFOの松山宜弘は、透明性を保つことが、結果として長期投資家の方々に納得感を与え、厳しい局面でも支えてもらうことに繋がると語る。しかし、宇宙開発事業とは、専門的で時間がかかる。投資家に正しく理解してもらうのはIRの仕事だ。IR担当の河野祥子は、日々のコミュニケーションの中で、投資家側の視点に立ち、先回りした情報発信を心がけているという。
河野「宇宙のプロジェクトは、外から見ると何のニュース発信もなく、事業の進展がないように見える期間が長く続きます。でも、その間も内部では将来の収益に向けた“種まき”が着々と進んでいます。その見えない進捗をどう言語化し、投資家の皆さんに伝えていくか。私たちが言いたいことだけを発信するのではなく、投資家の方々からの大小さまざまな粒度の疑問に対し、論理的な裏付けを持って回答する。その準備こそが、IRの腕の見せ所だと思っています」
松山「当社の重要なKPIに課題があるときは、確かに説明が難しい。しかし、その背景に政府の入札プロセスの遅延があるのか、あるいは戦略的に重要だが小粒な案件に注力しているからなのかなど、細部まで落とし込んで説明することで、投資家の皆さんの理解は深まります。期初時点ではもっとも保守的な業績予想を出し、受注が積み上がったときだけ上方修正を出す運用へと切り替えたのも、期待値を正しくコントロールするための手段です」
錦糸町という意外な拠点に込められた、実利と合理性
投資家との面談で、意外にも盛り上がるトピックがあるという。それは「なぜ本社が錦糸町なのか」というトピック。スタートアップといえば渋谷や六本木というイメージが強いが、アストロスケールがこの地を選んだ理由には、合理的な背景があったそう。
松山「いろんな場所を探した結果、錦糸町は絶妙な立地だったんです。当初施設の場所を検討していた際、この地域はモノづくりに理解があり、衛星の製造拠点を設けることに対する拒否反応も全くありませんでした。その後施設拡張を検討する際にも墨田区の土木事務所の跡地を活用させていただくことができ、行政の非常に手厚いサポートがありました。そして、衛星を製造する工場機能を持つ拠点として不可欠だったのが『道が広いこと』と『トラックが直接乗り入れできること』でした。精密機器である衛星を出荷する際、大きな振動を与えずに工場から空港へ運び、チャーター便へ積み込めるアクセスの良さは、極めて重要です。また、都心からのアクセスも良く、エンジニアの採用効率も高い。錦糸町は、ディープテック企業にとって理にかなった選択だったのです」
河野「施設見学に来られる投資家さんの中には、錦糸町で衛星を作っていることに驚かれる方もいらっしゃいますが、実際にここから衛星を載せたコンテナが運び出される光景を見ると、自分たちの仕事が現実の物理的な世界と繋がっている実感が湧きます。」
200人のファンと向き合う。活気あふれる株主総会
同社のIR活動は、機関投資家だけに向いているわけではない。2024年7月、上場後初となる株主総会が行われた。事業進捗説明会では、CEOの岡田光信が時間の許す限り質問を受け付けた。
河野「総会後の事業進捗説明会には200人以上の株主様が参加してくださり、実に2時間半以上にわたって株主の皆様から寄せられた多くのご質問に岡田自身が回答させていただきました。アストロスケールを応援してくれる個人投資家の方々は、単なる資金の出し手ではなく、宇宙の持続可能性というミッションを共にする“ファン”でもあると捉えています。一人ひとりの疑問に真摯に答え、納得してもらう。対話の積み重ねが、長期的なファン株主の形成に繋がると信じています」
松山「株主総会は厳しいご意見をいただく場でもありますが、同時に私たちの想いを直接伝えられる貴重な機会です。無難に終わらせるのではなく、積極的にコミュニケーションを図ります」
未来への展望と、資本市場と共に創る「宇宙の持続可能性」
アストロスケールにとってのIRとは、単に義務的な情報開示ではない。それは、宇宙空間という人類共通の財産を守り、次世代に繋いでいくための対話なのだ。
河野「自分が心から良いと信じている商材、そしてこの会社の将来性を、自信を持って市場に伝える。それが投資家に通じ、理解された時の喜びは何物にも代えがたいものです。IRという仕事を通じて、アストロスケールの価値を最大化し、宇宙の未来を創る一助になりたいと思っています」
松山「グローバルのガバナンス設計や各国の法規制への対応など、課題は山積みです。しかし、資本市場の枠組みの中で地球規模の課題解決に挑めるのは、やりがいのある挑戦です。上場前の夢を売るフェーズから、上場後の実績で対話するフェーズになりました。私たちはこれからも、透明性と誠実さを武器に、投資家の皆さんと共に歩んでいきたいと考えています」
現在、アストロスケールは、燃料補給からデブリ捕獲まで、複数の宇宙実証ミッションを受注しており、2027年4月期以降、順次実証衛星の打ち上げを予定している。実証に成功すれば当然、世界初の快挙だ。錦糸町から、世界へ、そして宇宙へ。アストロスケールは、宇宙の持続可能性を支える世界的なインフラ企業へと、事業とIRの両面でそのステップを着実に踏んでいる。
【第1回】IPOを目指して。アストロスケールホールディングス、激動の13年
【第2回】いざ上場。アストロスケールが行った投資家とのコミュニケーション







