金融×AIの可能性を探る
なぜAIにとって金融は「得意領域」なのか 業界で進む技術活用、見えてきた「無人銀行」の未来
「決済」や「銀行」は、AIによって新しい未来へ
この先AIがさらに進化すると、金融サービスはどのように変わっていくのだろうか。山本氏は、2つの考えを口にする。
1つは、AI同士が決済を行う未来だ。人が介在せずに、AIだけで商取引が成立する。そんな世界が訪れる可能性は高いという。
なぜこのような未来を想像するのか。鍵を握るのは、近年急速に進化する「AIエージェント」の存在だ。AIエージェントとは、人が目的を設定すると、その達成に必要な作業を自ら考え、複数のサービスやツールを利用しながら自律的に実行するAIである。
「たとえばどこかの飲食店を予約したい場合、料理の希望や金額、エリアなどを伝えれば、店選びから予約まで実行してくれる。AIエージェントはこういったことを可能にします」
さらに重要なのは、予約を受ける側もAIエージェントになる可能性があること。利用者側のAIがお店を探し、店舗側のAIが空席状況やおすすめメニューなどを返す。AI同士がやり取りをしながら、最適な予約を成立させていく。こうした未来は十分考えられるという。
すると、これらに付随する決済もAIだけで行う可能性が出てくる。言うまでもなく、決済は金融の中心を担う取引。AIだけでその作業を担うようになれば、金融業界にとって1つの転換点になるかもしれない。
もう1つ、山本氏が未来予測として挙げるのは「無人銀行」の可能性だ。AIエージェントが進化すると、銀行の業務すべてをAIが担い、「従業員のいない銀行運営が可能になるかもしれません」と、山本氏は示唆する。
もちろん、現時点では未来予測の域を出ない。しかし、可能性としては十分考えられるという。
「預金を集め、融資先を審査し、貸し出しを行い、その後の管理まで適切にできるのであれば、銀行という仕組み自体は成り立ちます。昨今の技術の進歩を考えると、これらすべてをAIでまかなう可能性もあり得るのではないでしょうか。もちろん、法律上の問題や、本当にその仕組みでうまく回るのかという議論はありますが、1つの未来予測としては考えられると思います」
先述のように、金融機関のビジネスは情報とデータで成り立っており、AIによる自動化を進めやすい。特にネット銀行のような、もともと店舗を持たない業態では、無人銀行の実現可能性はさらに高まるだろう。
「一方で、AIによる自動化が進むほど、人によるサービスの価値が高まるとも考えられます。銀行は、お客さまの大切なお金を預かる仕事です。だからこそ、『人に相談したい』『対面で話を聞きたい』というニーズは今後も残るでしょう。金融機関としても、人が対応することを自社の特徴に据えるケースが出てくると思います」
AIをフル活用して自動化・効率化を進めるのか。それとも、人による安心感や細やかさを強みにしていくのか。2つのバランスをどう配分するかは、金融機関それぞれの経営戦略に委ねられるだろう。
なお、金融機関がAIを活用していく上では、業界特有の難しさも存在する。最たるものがコンプライアンスだ。
「金融業界には、厳格な規制やルールが多数存在します。たとえば証券なら、顧客に『この銘柄は上がります』と推奨することはできません。もしもAIがルールを逸脱する行為をしてしまえば、大きな問題になります。特にAIエージェントを活用する際は、自律的に行動させつつも、ルールから出ないよう統制できるかが重要でしょう」
AIは金融業界を大きく変える可能性を秘めている。しかし、その変革は「信用」という金融の本質を損なわないことが前提となる。だからこそ、技術だけでなく、ガバナンスやルールづくりも同時に進めていくことが欠かせない。
親和性が高い一方で、業界特有の難しさも存在する「金融×AI」。その中で、金融機関各社はどのようにAI活用を進めているのか。次回以降の記事で、各社の取り組みを取材していく。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2026年9月現在の情報です




