「自己負担限度額」の引き上げに加え「年間上限」が新設
医療ジャーナリストが解説!「高額療養費制度」の見直しは“社会保険の変化”の第一歩?
「医療費で生活が破綻する人」を出さないための工夫も
技術の進歩による医療費の増加と別の領域の政策を受けて見直されることとなった「高額療養費制度」だが、市川さんは「自己負担限度額を上げざるを得ない理由があるものの、国は個人の負担が大きくなりすぎないように工夫している」と話す。
「『高額療養費制度』の見直しは、2025年に一度頓挫しています。当時は見直し後の制度内容がうまく設計されておらず、長期療養中の人を中心に負担が重くなり、生活が破綻するケースが多く出るとして反発を生みました。その後、療養中の方などの声も汲み取りながら設計し直し、現在の形での改正に至ったのです」
今回の見直しで、市川さんが評価している点は2つあるという。ひとつは、所得区分を細分化したこと。
「現状はこれまでの区分と同じで、年収約370万円未満で住民税を収めている人は、自己負担限度額が一律です。しかし、2027年8月から細分化されます。この変化によってさらに自己負担限度額が引き上がる方も出てきますが、より細やかに設定することで、収入に応じた負担を通じて『高額療養費制度』を維持しようとする努力が見られます」
もうひとつのポイントが、「年間上限」の新設だ。
「これまで、長い期間治療を続けているものの、ひと月の医療費が自己負担限度額に届かない人は『高額療養費制度』の対象外でした。自己負担限度額に達しないと『多数回該当(※)』も適用されなかったので、負担は増えるばかりでしたが、8月から『年間上限』が設定されたので、医療費負担が減るケースもあるでしょう。これらの変化から、国の『できるだけ医療費によって生活が破綻する人が出ないようにしよう』という思いが汲み取れます」
※過去12カ月以内に3回以上自己負担限度額に達した場合、4回目から多数回該当となり、自己負担限度額の上限が下がる仕組み。
社会保険の変化を感じ取り、医療や保険について考え直すタイミング
医療費で生活が破綻しないように配慮しつつ、見直された「高額療養費制度」。評価できる点はあるが、自己負担限度額が引き上げられたこと自体はきちんと把握しておかなければならない。
「自己負担限度額が引き上げられたのは、『高額療養費制度』が綻びかけている前兆とも取れます。先述した1億円かかるけれども命を救える薬の開発が進み、仮に年間5万人が使うとなると、医療費はすごい額になりますよね。そうなった場合、『1億円支払える人だけが治療を受けられる』ということになりかねません。もしくは、1億円の薬が『高額療養費制度』の対象でありながらも、痛みを緩和したり症状を和らげたりする薬は社会保険でカバーされないといった改正が行われるかもしれません」
「高額療養費制度」や日本の社会保険そのものが、変化する可能性が出てきているというわけだ。
「一例ですが、フランスなどの一部の国では、薬の有用性に応じて公的保険の給付率に差を付けており、症状を和らげる薬などは自己負担が大きくなるため、民間の保険で補う仕組みをつくっています。日本も同じような状況になる可能性がないとは言い切れません。もちろん確定的なことではありませんが、社会保険だけではカバーできず、民間の医療保険にシフトせざるを得ない社会になるかもしれないと考え、今後の『高額療養費制度』や社会保険の改正を追いかけていくことは大切だと思います」
健康や医療について、これまで以上に自分事として考えるタイミングに来ているといえる。
「少なくとも、現状社会保険でどの程度カバーされていて、個人で補わなければいけない部分はどこなのかということは把握しておきたいところです。また、薬には命を救うものと症状を和らげるものがあるといった、医療に関するリテラシーを身に付けることも大切です。そして、仮に公的な制度がなくなった場合にどう対応したらいいのか、自身の人生設計において必要な保険は何なのかといった点を考えておけると、いざというときに決断しやすくなると思います。いまは10年後、15年後の家計にものすごく大きく響く変化の始まりだと、僕は感じています」
「高額療養費制度」の見直しは、日本の社会保険制度の変化の一歩目なのかもしれない。医療はすべての人に関係するもの。いまの制度内容を押さえつつ、これからの変化も見逃さないようにしよう。
(取材・文/有竹亮介)

