教えて!『指数将軍』その8
株価変動の連動性
前回、ETFを使った投資戦略の簡単な例をご紹介しました。個別銘柄の株価変動と市場全体(ETF)の株価変動を組み合わせる考え方でしたが、このような投資をする際に意識しておかなければならないことがあります。それは、「株価変動の連動性」です。
つまり、「様々な価格変動はどの程度連動しているのか」ということです。これが重要なのは、例えば、配当金狙いで銘柄Aを買うと同時に日経平均インバース型ETFも買って市場全体の下落リスクをヘッジ(回避)するという投資をする場合、銘柄Aの株価変動と日経平均(正確にはインバース型ETF)の変動がどの程度連動しているのかによって、資金の割り振り方が変わるからです。
連動性を表す指標として、相関係数とベータというものがありますので、それを簡単に見てみましょう。
相関係数について
相関が最も顕著に求められるのは、株と債券を合わせた複合資産ポートフォリオにおいてで、株のリスクを相殺するために債券投資をするという「分散効果」の元になるのが相関係数です。
詳細な説明は省略しますが、異なる値動きの資産を組み合わせることで、全体のリスクを削減でき、リターンを向上させることができます。仮に、まったく同じ値動きをする2つの証券がある場合、リスク分散目的ではその2つを保有する意味はないことになります。このように、異なる値動きを具体的な数値で示すのが相関係数です。
余談ですが、相関の考え方は投資以外でも利用することが可能な、非常に重要な概念です。例えば、あなたが輸出企業に勤めているとします。その場合、あなたの会社の業績は為替相場に大きな影響を受けるので、最終的にはあなたのボーナスも為替相場の影響を受けると言えます。円高になると業績が悪くなるのでボーナスも減るという流れです。
一方、あなたの配偶者はガス会社に勤務しているとします。ガス会社にとって円高は業績にプラスです。(同じ量の石油・ガスを少ない円で買えるため。)従って、単純化すると、円高になると配偶者のボーナスは増えることになります。この場合、為替相場というリスクの高い市場の影響があなたの家庭では「相殺」されていることになり、2人併せた最終的な家計収入は低リスクになっているでしょう。
これは、あなたの収入と配偶者の収入が為替相場に対して逆相関の関係にあるので、それを組み合わせることで低リスク・ポートフォリオが出来上がっているからです。
ただし、仮に逆相関であっても、実際の資金額が異なると結果がことなりますのでご注意を。この例で、あなたの収入が配偶者の10倍の場合は、たとえ「値動き」が逆相関であっても、「手取りボーナス額」は無リスクではありません。
こう考えると、自社株購入が必ずしも投資としてはお勧めできないこともわかるでしょう。サラリーと株式投資が同一企業に集中している「まったく分散の効かないポートフォリオ」になっており、勤務先に万一のことがあるとすべてを失う可能性があります。
このように「自分にとって大きなリスク要因は何か」を考えて、それに対して逆相関にあるものを取り入れるという発想は生活レベルでも非常に重要です。
さて、相関係数に戻りますと、相関は-1~1までの値を取り、-1はまったく逆の動きをする「逆相関」、0は動きに関係性がない「無相関」、1は同一に動く「順相関」を示します。株式同士の株価変動の場合、通常は-1や0ということはありません。前回説明した理由から、大部分の銘柄は同じように上がったり下がるので、それなりに高い相関関係があります。
相関の計算はエクセルを使うと非常に簡単です。指数でもETFでも個別株でも良いのですが、比較したい2銘柄の時系列価格データ(騰落率)をエクセルに並べ、関数機能の「相関(Correlation)」を使えば一発で出ます。
相関係数に関しては注意しておくべき点がいくつかあります。まず、相関係数は因果関係を表していないということです。つまり、「Aが上がるとBが同じように上がる」という関係を表しているだけで、「Aが上がるからBが上がる」という因果関係があるということではありません。
次に、相関係数は常に一定とは限りません。特に、リーマンショックやトランプ相場のように相場が大規模に一方向に動く場合、これまで相関の低い銘柄であっても急速に相関が高まる(同じように動く)ことがあります。従って、ある程度長い期間で見た場合の値動きの傾向を示していると考えた方が良いでしょう。
ベータについて
ベータとは「感応度」とも言われ、一般的に株価指数と個別銘柄の株価の連動性を示す指標で、テクニカル分析などでも使われているようです。
株式に関するベータは1.5や0.8など、1に近い数字を取ることがほとんどです。ベータが1.5の銘柄は株価指数が10上がる時に15上がり、ベータが0.8の銘柄は8上がるという意味であると理解して下さい。先ほど説明した相関係数は「値動きの連動性」を表しますが、ベータはより具体的に「値動きの幅。どの程度同じように動くのか」を表しています。
ベータが低い銘柄は株価指数よりも値動きがおとなしいことになりますので、一般的に低リスク銘柄と認識されています。このように、ベータは「リスク指標」としても使われます。ただし、これは株価指数のリスクに対する相対的なリスクであって、絶対水準を示しているものではありません。(絶対的なリスク水準をベータで理解することはできません。)
機関投資家の間ではベータは非常に一般的に利用されており、ポートフォリオの構築に際して、例えば相場が上昇基調にある時はベータの高い銘柄を組み入れて、ポートフォリオのリターンが株価指数を上回るようにするという手法などがあります。
以前、3銘柄のベンチマークを使ったケースを説明しましたが、その際に「市場全体が上昇しそうだから、ABCの3銘柄をベータの高い3銘柄に切り替えてポートフォリオ・リターンを向上させよう」という考え方になります。
相関とベータを踏まえましたので、ここで話をETFに戻します。レバレッジ型ETFというのは株価指数の動きを倍増させるものですので、強制的に高ベータを実現していると考えることができます。従って、具体的な使い方としては、相場が上昇基調に入ったと判断した場合にレバレッジ型ETFを購入することで非常に簡単に高ベータ銘柄を手に入れることができます。
我々個人投資家は、これまでも直観的に「相場が上昇しそうだからレバレッジETFが買いだ」と思ってきたわけですが、これが実はベータの考え方を無意識に取り入れているということがお分かりいただけると思います。
まとめると、レバレッジETFとは株価指数との相関が高くて、かつ高ベータの商品です。一方、インバースETF(ショートETF)とは、株価指数と逆相関でベータが1の商品ということになります。
先ほどの説明で、相関係数は常に一定ではないと言いましたが、レバレッジやインバースETFの場合は、商品特性として一定水準に保たれているので、投資家にとっては非常に分かりやすく、従って使いやすいと言えます。
(指数将軍)