教えて!『指数将軍』その9
業種指数について
これまで株価指数の中身や利用方法、それからETFへのつながりという順序で説明を加えてきました。その中で、ETFという商品が「市場リスク」を表しており、それを売り買いすることで投資家が市場リスクをコントロールすることができるという仕組みを説明してきました。更に、レバレッジとインバース型ETFは大きな可能性を秘めていることを説明してきました。
さて、今回はもう少し細かな話になります。株式投資には、市場リスク以外のリスク要因が存在しています。例えば、業種というリスク要因です。業種は「セクター」とも言われ、世界的には「世界業種分類基準(GICS)」という業種分類が主流で、MSCIのグローバル指数などはGICSベースの極めて多数の業種指数が算出されています。
一方、日本では東証の規定する17業種や33業種という区分が一般的です。業種分類は、「同じような事業特性を持つ企業群」というくくりですので、様々な分類方法がありますが、投資家としては「同じようなリスクを持つ企業群」と考えることになります。事業リスクが共通している企業群なので、特定のニュースや事象に対して、同じように株価が反応する(同じように投資家が考える)ということです。
さて、日本には17業種をベースとする多数のセクターETFが上場しています。しかし、残念ながら流動性の高い(売買が活発な)セクターETFは非常に限られています。米国ではセクターETFというのは非常に活発に売買されており、いかに「セクター」というリスク要因が米国で定着しているかが分かります。日本ではセクターETFが機動的に売買できないので、もう一段高度な株式投資を行うことができないのですが、参考までにどのように使うことができるかをご説明します。
セクターETFの使い方を考える上では、まずその元となる業種指数の振る舞いを理解する必要があります。業種指数を合成したものがTOPIXなどの市場全体を表す株価指数ですので、使い方としては、市場を細分化した投資ということになります。
業種の中にはかなり特徴的な動きをするものがあります。最も知られているのは公益事業でしょう。電力やガスという公益事業業種は、一般的に低ベータ(値動きがおとなしい)という特徴があり、比較的配当利回りが高いという特徴がありました。ただし、東日本大震災後の原発問題により、過去顕在化していなかったリスクが存在することが明らかになったため、現在、公益事業セクターを「ディフェンシブ(守り)」と認識するのは難しくなっていると思います。
同じ公益事業でも、電力会社とガス会社ではまったく見方も異なっていると思います。このような場合、ロング・ショート運用をすることが可能です。
配当利回りなどの観点でガス会社は引続き魅力的だとすると、ガス会社を買って、原発再稼動や補償問題がある電力会社のリスクは取りたくない。そのような時には、ガス会社を購入し、公益事業セクターETFを空売りするという手法が考えられます。どちらにどの程度投資するかについては、相関などを考慮する必要があるのは既述の通りです。
また、金融セクターも比較的特徴が明らかな業種です。金融は金利への感応度が高いという特徴があり、また市場全体と比較して高ベータ(株価指数よりも値動きが激しい)という特徴があります。
このような業種指数の振る舞いについて馴染みのない投資家の方は、以下の方法で実際にデータ分析をしてみて下さい。
(1) まず、取引証券会社や金融データの充実したホームページなどから、業種指数の過去データをダウンロードする。過去データは、できれば3年以上欲しいところです。また、投資ホライゾン(投資の期間)によって、日次騰落率でも月次騰落率でも構いません。両方見るのがベターです。
(2) まずは、TOPIXや日経平均と併せて、過去の業種指数値でチャート(グラフ)を作成し、どのようにそれぞれの業種が動いてきたかを確認する。
(3) 次に、騰落率を使ってエクセルで相関とベータを計算し、それをTOPIXや日経平均と比較する。
(4) 過去のチャートと相関やベータを合わせて確認し、それぞれの業種がだいたいにおいてどのような振る舞いをする傾向にあるのかを認識する。なお、すべての業種について認識することはできないので、分かるものだけを理解するということでもOK。(分からないものは投資しなければ良いので)
本当は、セクターETFの値動きでそれらの振る舞いを理解するべきなのですが、既述の通り、流動性が低くて意味のあるデータになる可能性が低いため、業種指数で代用して理解することになります。
ただ、残念なことに、そのようにして理解をしたところで、セクターETFを売買できないのであれば実利は少ないことになります。その場合は、個別銘柄で業種指数を代替させるというアプローチが可能でしょう。要するに、業種指数との相関が高く、ベータが1に近いような銘柄を探すわけです。そのような個別銘柄をセクターETFの代替として使うことが可能です。
米国の例を見ると、セクターETFの売買は非常に活発で、特にヘッジファンドが多用していると言われています。ヘッジファンドは個別銘柄を絞り込む時間が惜しい人たちなので、市場ニュースに反応しての売り買いでセクターETFを使うことが非常に多いと言われています。また、個別銘柄を買い(ロング)、その銘柄が属するセクターETFを空売り(ショート)する、という手法を使うとも言われています。
この手法は、特定の業種が今後苦戦するような状況(例としては、金融規制が強まるので金融業種が長期的に下落するようなケース)で、業種全体をショートし、その中で「勝ち組」になる企業を買うという戦略です。これはマクロ的環境とミクロ的環境をミックスしたダイナミックな投資戦略であり、機動的に使えるセクターETFがあれば非常に有効な戦略です。
何度も繰り返して申し訳ないのですが、業種に基づいた株式投資はまだ日本には定着していると言えず、使える道具が少ないため、本稿の内容も非現実的な側面があることは否定しません。ただ、実際に市場ではそのような売買が行われていることや、ETF投資の理想形を知ることもまた重要だと思います。
また、そもそも業種指数に関するデータも充分に開示されているとは思えません。もっと多くの情報、特に業種指数に関するファンダメンタル情報(利回りやPERなど)も出ていれば、様々な投資判断に役立つでしょうし、それに基づいてセクターETFを売買する投資家も増えてくると思われます。
(指数将軍)