とある市場の天然ゴム先物 14
天然ゴム先物価格はゴム関連株の先行指標となるか???
今回は少し趣向を変え、天然ゴム先物とゴム製品株の値動きの関連性について見てみます。天然ゴム先物の値動きからタイヤメーカー等の株式の値動きを予測することができるものなのでしょうか??
東証に上場する「ゴム製品」企業
まずは東京証券取引所に上場するゴム関連企業をピックアップしてみましょう。
会社が取引所に上場する際、各社の業種は証券コード協議会によって定められた規則に基づいて決定されます。この業種には大分類・中分類があり、そのうち中分類は「33業種分類」とも呼ばれ、投資家にも馴染みのあるものとなっています。
なお業種分類は世の中で一つに決まっているという訳ではなく、例えば日本経済新聞や会社四季報(東洋経済新報社)は取引所で使用している33業種分類とは異なる基準で業種を分類しています。
脱線してしまいましたが、それではまずは東証に上場しているゴム関連企業として、33業種分類において「ゴム製品」と分類されている会社を見てみましょう。
ゴム製品会社一覧(2021年3月末現在)
2021年3月末現在、東証に上場する3,756社のうち19社がゴム製品に分類されています。もちろんこちらは33業種分類上のリストですので、ゴムに関連する上場会社の全てを網羅できている訳ではないことにご注意下さい(例えば合成ゴム関連企業の多くは「化学」に分類されています)。
このうち市場第一部に上場する会社は11社、市場第二部は6社、JASDAQが2社となっています。
これらゴム製品の時価総額は約4.7兆円で、そのうちタイヤメーカー4社で90%超を占めています。またその他の上場会社についても、ゴム製品の特性から自動車製造に関連する企業が多いことが分かります。
短期の値動きへの影響
先ほどご紹介した「ゴム製品」に分類される上場会社のうち、原材料として天然ゴムを使用しているところは多いと考えられます(ただし石油由来の合成ゴムをメインで使用している会社もあることには注意が必要です)。
そうした会社にとっては、天然ゴム価格(原材料価格)が上昇するということは収益の圧迫要因となることから、株価にも何らかの影響が出る可能性があります。
それでは天然ゴム価格の国際指標として広く認知されている大阪取引所の天然ゴム(RSS3)先物の値動きを見ることによって、ゴム製品株の動向を予測することができるものでしょうか?
まずは短期の値動きから見てみましょう。ここでは分かりやすいように、大手タイヤメーカー4社の株価とRSS3先物価格を2020年1月から比較してみます。
天然ゴム(RSS3)先物と大手タイヤメーカー株価の比較
まず2020年からの天然ゴム(RSS3)先物の値動きですが、2020年初よりコロナ感染拡大の影響を受けて天然ゴム需要が減少し、4月には底値を付けることになります。
その後、しばらくは低位安定が続きましたが、夏頃から中国経済がV字回復の兆候を見せ始めたことに加え、日本国内で天然ゴムの在庫不足が表面化したことで価格が上がり始め、2020年10月末には短期間で一気に高騰しました。その後は方向感が定まらないまま、2020年初から10~30%高い水準のレンジで推移しています。
一方、この間の大手タイヤメーカー各社の株価を見てみますと、各社水準は異なりますが似たような動きをしていることが分かります。
天然ゴム先物と同じくコロナ感染拡大の影響を受けて年初から大きく下げたのち、4月から6月にかけて反転して一度6月にピークを付け、8月以降にタイヤ需要見通しの回復に歩調を合わせてなだらかに上昇を始め、2021年以降はその動きが顕著になっています。
ここで繰り返しになりますが、天然ゴム先物価格の上昇は原材料費の上昇に繋がるため、タイヤメーカーにとっては株価の下押し要因になると考えられます。
その文脈では2020年8月からの天然ゴム先物価格の急上昇はネガティブなインパクトとなりそうなものですが、各社の株価はそこまで大きな影響を受けていないように見えます。強いて挙げるとすると、先物価格が短期で急騰した10月末の1週間で各社の株価が5~10%程下落したくらいでしょうか。
もちろん観察する期間によって異なるでしょうし、極端な急騰の場合は短期的に収益に影響が出ることもあるでしょうが、少なくとも2020年初から2021年5月までの値動きを見る限り、全般的には天然ゴム先物と大手タイヤメーカーの株価の短期値動きの関連性は低そうだと言えそうです。
こうした背景としては、各社の株価につき、(1)当然のことながらマクロ経済動向(タイヤ需要動向)の方がより大きなインパクトがある、(2)原材料価格が継続的に上昇する状況にまでは至っていないと見られた、(3)ある程度の原材料価格上昇は売上増加や費用削減、製品価格改定等により対応可能なため、インパクトは小さいと判断された、などが考えられるでしょう。
長期の値動きへの影響
先ほどご紹介した期間を見る限り、天然ゴム先物とゴム製品株において短期的な値動きにはそこまで強い(負の)相関関係はなさそうです。
ところで以前にもご紹介しましたが、天然ゴム先物価格は長期の上昇・下落トレンドが10年近く続くことがあります。
それではそうした長期のトレンド時において、天然ゴム先物価格はゴム製品株の値動きにどのような影響を与えるのでしょうか。
先物価格との比較を簡単にするために、ここでは東証33業種別株価指数のうちの「ゴム製品指数」を使用してみます。
ちなみに東証業種別株価指数は東証市場第一部に上場している会社の33業種分類別の指数となり、ゴム製品指数の構成銘柄は11社となります(2021年5月7日現在)。とはいえこの指数は時価総額ベースであり、指数ウェイトのほとんどがタイヤメーカーとなりますので、タイヤメーカーの合成指数とみなすこともできるでしょう。
天然ゴム(RSS3)先物とゴム製品指数の比較
まずは天然ゴム先物価格です。2000年以降の期間を見てみますと、第6回でもご紹介したとおり、2000年頃からの中国経済の急成長をきっかけとして世界的に資源・商品価格が長期的に値上がりし、歩調を合わせて天然ゴム先物価格も上昇することになります。
2008年の金融危機により急落しますが、中国経済が一早く回復基調となり更には上海のゴム先物相場の思惑的な上昇に連動し、2011年には史上最高値を記録します。ただしその後は中国の年率GDP成長率が1桁台に鈍化したことに加え、生産国の生産量増加による供給過剰などを背景として長期の下落トレンドとなります。
一方、ゴム製品指数を見てみますと、2000年代の天然ゴム価格上昇の場面では同様のペースで指数も上昇しており、この間は原材料価格値上がりの影響よりも需要拡大による恩恵の方が大きかったと言えるでしょう。
2008年の金融危機以降は2012年末まで指数は低迷を続けます。しかしその後は2012年末のアベノミクスによる株価上昇に歩調を合わせて指数は上昇し、2019年まで一貫して市場全体のベンチマークである東証株価指数(TOPIX)を上回るパフォーマンスとなります。
さてこの長期チャートで真っ先に問われるのは「2008年の金融危機以降の天然ゴム価格の急騰が、ゴム製品指数(タイヤメーカーの各社の株価)の低迷の原因になっていたか」という点です。
結論としては「もちろんコストとしての影響はあったものの、最終的な業績や株価へのインパクトは大きくなかった」というのが正直なところです。
例えば原材料高騰が直撃した2011年度のタイヤメーカー各社の決算資料を見てみますと、原材料のコスト増を価格改定や販売量増加で吸収することで各社とも増収増益を達成しています。つまりはこの期間の指数値の低迷は、原材料コストよりもむしろ欧州発の債務危機や東日本大震災といった需要側の要因が各社株価に及ぼした影響の方が大きかったと言えるでしょう。
もちろん原材料高騰がなければ更に収益が増加した可能性も考えられます。とはいえ、例えば天然ゴム先物価格が6年ぶりの安値となった2015年度では、原材料のコスト減を価格改定等の収益の減少で打ち消しているなど、原料スライドの導入等により原材料コスト増減によるインパクトを受けにくい財務体制を構築していると考えられますので、やはり原材料コストが株価に与える影響は想像するより大きくはないのでしょう。
したがって、今後タイヤ需要を含めたマクロ経済環境や販売力、価格改定の交渉力等に大きな変化が同時に生じるようなことがなければ、長期的に見た場合でも天然ゴム先物価格と(タイヤメーカーが中心の)ゴム製品指数の間にはそこまで大きな(負の)相関関係は生じないものと思われます。
さて、今回はタイヤメーカーに主眼を置いた分析をしてみました。次回はタイヤメーカー以外のゴム関連会社について、簡単な指数を作成して天然ゴム先物価格がその値動きに影響しているかを調べてみます。
※次回の更新は2021年5月25日(火)頃の予定です。
※本稿に関わる分析内容は筆者の見解に基づくものとなります。
【参考資料】
タイヤメーカー各社 決算説明資料
東京証券取引所「東証指数算出要領(東証業種別株価指数・TOPIX-17 シリーズ編)」
東京証券取引所「東証上場銘柄一覧」
(著者:大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介)
(東証マネ部!編集部)