歴史的な視点で経済や市場を学ぶ

【第13回】第二次世界大戦前後の証券市場(前編)

TAGS.

この記事は、連載シリーズ「歴史的な視点で経済、市場を学ぼう」の第13回で、2021/5/30(日)配信「【第12回】昭和金融恐慌と投資」の続きです。

1. 明治・大正・昭和(戦前)の市場改革とその失敗1

1 戦前の市場改革と日本証券取引所の設立に関しては、主に、「日本証券史論」小林和子 日本経済評論社 2012を参照

戦前期を通じての証券市場に関する政策当局の一貫した長期的課題は投機の抑制でした。

この連載でも東京株式取引所の設立の経緯のなかで、取引ルールとして堂島以来の清算取引が認められ、取引所が株式会社化された経緯についてお話ししましたが、当初から日本の証券市場は伝統的な投機的な商慣習を抱え、かつ、それを自主的に抑制すべき業者同士の組織(欧米の取引所の根本である会員組織=自主規制機能)を欠いて発足しました。渋沢栄一は自主規制機能のある、会員組織としての取引所を目指していました。しかし取引所関係者が株式会社組織を望んだことから、渋沢は彼らの意向に即した制度整備に協力的となったのです。

また、株式会社化した取引所の株は当所株と言われ、各地株式取引所の取引の中心となりました。例えば東京株式取引所の株は「東株」さらには同じく東京株式取引所が増資の際に発行した株式は「新東」と呼ばれ、後述する短期清算取引で最も売買された銘柄でした。

明治・大正・昭和期を通じて、政策当局は、投機的な取引ルール規制に関しては、伝統的な3か月の定期取引の短縮を打ち出しては失敗し、取引所の会員組織化を目指しては失敗します。そうこうしているうちに、1920年の株価の暴落があり、低迷する市場の喚起策としてより投機的な短期清算取引が東阪の取引所で導入される一方で、大阪株式取引所や東京株式取引所での不祥事等が取りざたされ、証券市場そのものや監督官庁への国民の信頼は失墜していきました。

2 野村徳七は「大株問題私見」を書き、取引所理事長の人選に関して市場関係者に反省を求めています。

2. 日本証券取引所の設立

この頃の日本は、対外的には満州における日本の権益の強化を図り、清朝下の中国との対立を深めていました。第一次世界大戦後の好景気の影響がすっかりなくなり、1930年には世界恐慌の影響が日本を覆います。いわゆる昭和恐慌です。貧富の格差や経済不信への大衆の不満は高まり、その矛先は財閥にも向かい、1932年には三井合名理事長の団琢磨が殺害されるという事件が起こります。1936年には226事件が起こりますが、このような軍部の台頭も証券市場を含めた経済的な問題が背景にあったとされています。

やがて、日米開戦を前提とした戦時体制が一気に強化され、1941(昭和16)年には、証券市場に関して、2本の勅令が出されます。これらの勅令は、市場価格の変動が政府の認める範囲内になることを意味していました。その後、日米が開戦し、1942(昭和18)年、日本証券取引所が設立されます。日本に当時あった11の取引所は東株、大株を含めすべて日本証券取引所配下の市場となり、日本証券取引所は、特別法である日本証券取引所法に基づく日本に唯一の取引所であり出資法人となります。これによって、各取引所の株式は消滅し、日本証券取引所は従来の取引所法の枠外であるため、短期清算取引も消滅しました。

そして、長い間施策当局を悩ましてきた清算取引(長期)も大坂、東京を除いて廃止されます。清算取引の残った大阪、東京にも、その取引の中心だった当所株は存在せず、こうして、戦時体制を支えるための日本証券取引所は、江戸期から続く証券取引の商慣習にピリオドを打ち、明治期以降の取引所制度改善論の意図せざる到達点となりました。

3 前掲、小林。

一方で戦時下特有の規制も起こります。例えば、軍事関連の企業情報は最高機密でしたから、軍需関連の銘柄が売れると、証券会社の役員が憲兵から家宅捜索を受け、誰が売ったのかを追及されることもあったようです。

しかし、1945(昭和20)年3月10日東京大空襲により同月16日まで立会が停止され、立会再開後、軍需関連の銘柄が総売りとなりました。もはや敗戦を見込んだ取引が進められたのです。

1945(昭和20)年8月9日に大蔵省により、全国証券市場の臨時休業が発表されました。その前の8月6日に広島に原爆が投下され、9日には長崎に原爆が投下されています。この8月9日が事実上最後の日本証券取引所での取引となり、10日から立会は停止されます。

この頃には取引所関係者や証券会社の人々には、日本が終戦を迎えることが現実の話としてささやかれるようになりました。ポツダム宣言受諾後、立会は再開することなく、1947(昭和22)年に、正式に解散となりました。(後編に続く)

※このお話は、横山和輝名古屋市立大学経済学部准教授の協力を得て、横山氏の著作「マーケット進化論」日本評論社、「日本史で学ぶ経済学」東洋経済新報社 をベースに東京証券取引所が作成したものです。

(東証マネ部!編集部)

<合わせて読みたい!>
第二次世界大戦前後の証券市場(後編)

用語解説
設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想などをお寄せください。
(200文字以内)

注目キーワード