定年後の運用の基礎は“半分安全資産・半分投資”
退職金のはなし(2)退職金を元手に運用開始ってあり? なし?
退職のタイミングで、退職金という大きなお金が舞い込んでくる。このお金を、60歳からの生活資金に充てようと考えている人も多いだろう。
「今は男性の二人に一人が85歳、女性の二人に一人が90歳まで生きる時代なので、定年を迎える60歳から預貯金を取り崩してしまうのは早いといえます。退職金の運用も考えられるといいでしょう」
そう話すのは、『定年後ずっと困らないお金の話』の著者であるマネーコンサルタント・頼藤太希さん。では、定年退職後の運用はどのように進めていけばいいのだろうか。
退職後の運用が「資産寿命」を延ばすカギ
「内閣府が発表している『令和3年版高齢社会白書』から読み取れるように、いまは60歳を超えても働いている人が多い時代です。70~75歳まで働けば10~15年は収入があるため、運用もできる期間といえます。また、75歳以降も運用しながら預貯金を取り崩していくと、資産寿命を延ばせます。老後の運用はとても大切です」(頼藤さん・以下同)
●60歳以上の就業者の割合/内閣府「令和3年版高齢社会白書」より作成
60~64歳男性 83%
60~64歳女性 60%
65~69歳男性 60%
65~69歳女性 40%
70~74歳男性 41%
70~74歳女性 25%
75歳以上男性 16%
75歳以上女性 7%
頼藤さんが話すとおり、男性の半数以上、女性の約4割が60代後半まで働いていることがわかる。その間、収入があるとなると、余裕をもって運用できそうだが、年齢的にはあまりリスクを取れない気も…。
「リスクを取りづらい世代であることは間違いないので、おすすめは退職金の半分を預貯金や個人向け国債といった安全資産、半分を投資に回す方法です。退職金2000万円であれば、1000万円ずつ分けるイメージ。すべてを投資に回すべきとは言いません」
安全資産に回す分のお金は、普通預金よりも高い金利を受け取れる「退職金専用定期」に預けるのもひとつの方法だという。
「銀行ごとに『退職日から2年以内に1回だけ利用可能』『最低500万円以上』といった条件がありますが、その条件を満たせば、一定期間高い金利で預けられます。例えば、三井住友信託銀行の『退職金特別プラン 定期預金コース』だと、3カ月間の金利が0.8%になります(2022年9月時点)。普通預金に預けるより有利ですよね」
投資先は「ETF」「インデックス型」「バランス型」
一方の投資の部分は、どのように考えていくといいだろうか。
「投資対象のおすすめとしては、『ETF(上場投資信託)』『インデックス型投資信託』『バランス型投資信託』が挙げられます。特に『ETF』は、一般的な投資信託より手数料が低い、リアルタイムの市場価格で取り引きできるといった特徴がありますし、一本買えば手軽に分散投資できるので、定年後の投資に向いた商品といえます」
●ETF
日経平均株価やTOPIXといった株式指数に連動するように運用される投資信託の一種。取引所に上場しているため、株式と同様にリアルタイムで取引できる。
●インデックス型投資信託
日経平均株価やTOPIXといった株式指数と同じ値動きを目指す投資信託。値動きがわかりやすく、信託報酬が低く抑えられているものが多い。
●バランス型投資信託
ひとつの資産に偏ることなく、日本株、外国株、債券など、さまざまな金融資産にバランスよく投資を行う投資信託。
「商品を決めたら、一括で投資するのではなく、投資タイミングを複数回に分けましょう。例えば、退職金1000万円を投資に回すとしたら、『月50万円投資を20回』『月100万円投資を10回』『月200万円投資を5回』などのように分けると、時間的な分散につながり、リスクを抑えられます」
なぜ、時間分散を行うかというと、「値動きは誰にもわからないから」とのこと。
「どのタイミングで値が上がるか下がるかは、金融のプロでも見抜けません。分割で投資することで値動きの影響を受けにくくなり、安定感のある運用につなげることができます」
「お得」に見える投資商品ほど要注意!
定年後の投資に向いている商品があるように、おすすめできない商品もあるそう。
「投資をすれば必ずお金が増えるわけではありません。特に60歳以降はリスクを抑えたいので、慎重な判断が重要です。これから紹介する投資商品は、少なくとも定年後は避けた方が安心でしょう」
●不動産投資
「不動産投資は不労所得が得られてメリットの多い投資のように感じますが、物件の仕入れ価格や家賃の相場、物件の需要など、不確定要素の多い投資だといえます。また、2500万円の物件を購入して家賃10万円で貸し出したとすると、元を取るまでに20年以上かかります。投資金額の回収を考えると、退職金の投資先としては避けたい資産のひとつです」
●毎月分配型の投資信託
「文字どおり分配金が毎月支払われる投資信託ですが、分配金の分だけ投資信託の元本が減るので、値上がりしても恩恵を受けにくい商品です。また、信託報酬などの手数料が高く設定されているものも多いといえます」
●仕組債
「オプション付きの債券で、一般的な債券より利回りが高くなっています。しかし、複雑な仕組みを用いているために手数料が高く、損失を被っている人も多い商品です。証券・金融商品あっせん相談センターでの紛争解決手続き終了事例のうち、仕組債は38%でトップ(2021年9月までの1年間)になっているので、要注意です」
●退職金運用プラン
「定期預金と投資信託などの運用商品をセットにしたもの。定期預金の金利は年率5~7%と高く設定されていますが、3カ月などの短期間の預け入れ期間となっている一方で、投資信託の購入時手数料や信託報酬が高く設定されていますので、トータルで見ると損になる商品が多い印象です。セットプランには手を出さず、信託報酬の低い投資信託を自分で探して組み合わせた方がいいでしょう」
●外貨建て保険
「保険料の支払いや保険金の受け取りが外貨で行われる保険で、『元本保証』をうたっているものも多いのですが、その保証はあくまで外貨ベース。為替レート次第では、円に戻したときに損をする可能性があります。販売手数料が高いことも多いので、注意しましょう」
退職金の運用について金融機関に相談すると、上記のような商品を薦められるケースがあるという。
「金融機関に相談する場合は、ある程度お金の知識を身につけたうえで行った方がいいでしょう。知識があることが伝われば、真っ当なプランを提案してもらえる可能性が高まります。慎重に判断する時間を設けるため、まずは退職金全額を『退職金専用定期』に入れ、金利が高くなっている間に戦略を練るのもひとつの方法です」
退職金の運用で大切なのは、一気に大きく増やすことを目指すのではなく、老後のために安定的に増やす方法を考えること。退職金の半分を何に投資するか、冷静に判断していこう。
(有竹亮介/verb)
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頼藤太希
Money&You代表取締役、マネーコンサルタント。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年にMoney&Youを創業し、現職へ。マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『会社も役所も銀行もまともに教えてくれない 定年後ずっと困らないお金の話』ほか著作・共著・監修書多数。