金融緩和とは何かわかりやすく説明!日本の金融政策事情も理解できる

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金融緩和とは、経済を活発化させるために中央銀行が行う金融政策のことです。それに対し、景気の過熱を抑える際は、金融引き締めを実施します。

本記事では、金融緩和とはどのような政策かわかりやすく説明した上で、具体的な方法や為替・物価との関係性も紹介します。

金融緩和は金融政策のひとつ

金融緩和は、中央銀行が行う金融政策のひとつです。日本では、日本銀行が金融緩和を行います。

ここでは、金融緩和について詳しく確認していきましょう。

金融緩和とは

金融緩和とは、市場に出回るお金の供給量を増やすなどにより、経済を活発化させる政策のことです。一般的に、金融緩和で市場に出回るお金が増えるため、主に景気を上向かせる手段として用いられます。

ただし、金融緩和を行えば暮らしが豊かになるとは限りません。金融緩和によって物価が上昇するにもかかわらず、労働者の賃金が上がらなければ、生活の負担が増します。

また、金融緩和は低金利につながるため、一般的に民間の銀行の金利収入は少なくなります。

金融緩和の対義語は金融引き締め

市場に出回るお金の供給量を増やす「金融緩和」に対し、供給量を減らすことを「金融引き締め」と呼びます。金融引き締めは、物価の安定や景気の過熱を抑制するために用いられる政策です。

ただし、金融引き締めで金利が上昇すると、企業や個人が借入をしにくくなります。これは設備投資や消費の抑制につながるため、一般に金融引き締めを行う景気が減速することになります。

金融緩和の方法とは

一般的に、金融緩和は以下の方法で行われます。

・政策金利の引き下げ
・国債などの資産の買い上げ

それぞれの方法を確認していきましょう。

政策金利の引き下げ

政策金利には、主に公定歩合・日本銀行当座預金金利・無担保コールレートの3つがあります。

公定歩合とは、中央銀行が民間の金融機関に貸し出す際の金利のことです。かつて、預金金利は公定歩合と連動することになっていたため、金融政策に利用されていました。

しかし、1994年に金利自由化が完了したため、現在は公定歩合と預金金利に連動性はありません。それ以降は、日本銀行では日銀当座預金金利と無担保コールレートを政策金利として重視しています。

日本銀行当座預金金利とは、日本銀行が取引先の金融機関等から受け入れている当座預金の金利です。日本銀行当座預金金利をマイナスにすると、金融機関は日本銀行に利息を支払わなければならないため、日本銀行当座預金に預けていた資金を低金利で融資に回すようになります。

無担保コールレート(オーバーナイト物)とは、各金融機関が短期的な資金の過不足を調整する取引の場(コール市場)で、約定日に資金を借りて、翌営業日に返済する無担保資金貸借にかかる金利のことです。無担保コールレートを下げれば、金融機関は低金利で調達できるようになるため、一般的に企業や個人にも低金利で融資しようとします。

つまり、政策金利が低下すると、民間の金融機関は企業への貸出金利や個人への住宅ローン金利などを下げるようになることが一般的です。企業も個人も金融機関からお金を借りやすくなるため、設備投資や消費が拡大し、経済活動が活発になります。

国債などの資産の買い上げ

政策金利の引き下げに加えて、国債などの資産を買い上げて金融市場に資金を供給する方法で、金融緩和を実施することがあります。買い上げに伴い、国債の価格が上昇し、利回りは低下することが一般的です。

ここで、国債などの資産の買い上げが金融緩和につながる理由を確認しておきましょう。

まず、日本銀行が長期国債などを買い上げると、各金融機関は国債の運用利息による収入を期待できなくなります。日本銀行が長期国債を購入すると、市場の需給関係がタイトになり、一般的に国債の価格が上昇して長期金利は低下することが、金融機関が利息による収入を期待できなくなる要因です。

そこで、金融機関は国債による利息収入の代わりに融資で利息収入を得ようとするため、企業や個人が借入しやすいように貸出金利を下げることを検討するでしょう。

その結果、政策金利を引き下げた場合と同様に、企業や個人がお金を借りやすくなり、経済活動が活発になります。

このように、日本銀行による金融機関からの国債買い入れで、市場に大量の資金を供給することを「量的緩和」と呼びます。それに対し、買い入れる国債の期間を伸ばしたり、国債以外の元本保証がされていない資産を買い入れたりすることを「質的緩和」と呼ぶことが一般的です。

金融緩和によって影響が出る分野

日本銀行が金融緩和を実施することで、さまざまな分野に影響を及ぼします。ここから、「為替」「経済状況」「物価」と金融緩和の関係について、詳しく解説します。

為替

金融緩和で国内の金利が低下すると、自国通貨が売られて他国の通貨が買われる傾向にあります。金利の高い通貨の方が、利息による収入を期待できることが、人気に差が生じる理由です。

日本の場合、金融緩和で国内の金利が下がることで一般的に円安につながる傾向にあります。円安について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

円安・円高って何?これを読めばよりニュースを理解できる

経済状況

金融緩和で国内の金利が低下すると、借入をしやすくなるため、企業の投資や個人消費が活発化されることが一般的です。企業の設備投資が進むことで、売上の増加や株価上昇、労働者の賃金向上も期待できるでしょう。

ただし、理論通りにいくとは限りません。金融緩和しても景気が上向かず、国民の生活が苦しい状況が続くこともあります。

物価

金融緩和で国内の金利が低下し、金融市場で資金供給量が増えて企業の業績向上や労働者の賃金アップにつながると、一般的に物価が上がります。

融資の受けやすさや賃金引き上げで個人の消費意欲が高まり、モノやサービスに対する需要も出てくることが、物価上昇の要因です。また、一般的に金融緩和が自国の通貨安(日本の場合円安)を招きやすい点も、物価上昇に関係します。

ただし、金融緩和で物価が上昇しているにもかかわらず、賃金引き上げにつながらないこともあるため、注意が必要です。

金融緩和の実施を知る方法

金融緩和の実施を確認するには、主に以下の方法があります。

・日銀金融政策決定会合をチェック
・日本銀行総裁の会見やニュースを確認

それぞれ詳しく解説します。

日銀金融政策決定会合をチェック

金融緩和を実施するか知るために、日銀金融政策決定会合をチェックしましょう。金融政策決定会合とは、日本銀行の会合のうち、金融政策の運営に関する事項を審議・決定する会合のことです。

金融緩和や金融引き締めは、基本的に会合内で決定されます。会合の実施は年8回、近年は1月・3月・4月・6月・7月・9月・10月・12月に行われています。

日銀金融政策決定会合の概要や日銀の役割については、以下の記事も参考にしてください。

日銀短観とは年に4回日銀が発表する調査結果!注目される理由も解説

日本銀行総裁の会見やニュースを確認

日本銀行総裁の会見や、それに関するニュースも金融緩和の実施を知るために大切です。たとえば、2023年1月18日に行われた日本銀行総裁記者会見では、日銀金融政策決定会合で「現在の大規模な金融緩和策を維持することを決定したこと」が発表されています。

一般的に、日本銀行総裁の会見内容は、メディアのLive配信で視聴可能です。また、記者会見後、日本銀行のウェブサイトに内容が掲載されます。

参考:日本銀行「記者会見 2023年」

日本の金融政策事情・歴史を学ぼう

日本の景気に対応するため、日本銀行はこれまでにさまざまな金融政策を実行してきました。ここから、日本の金融政策の歴史の中で、とくに象徴的な出来事について解説します。

かつては準備預金制度の準備率や公定歩合の変更が中心

かつて、日本銀行は準備預金制度の準備率や、公定歩合を変更することで金融緩和や金融引き締めを実施してきました。

準備預金制度とは、対象となる金融機関に一定率の預金を預け入れさせる制度です。準備率を引き下げると銀行はより多くの資金を融資に回せるため金融緩和、引き上げると融資できる資金が減るため金融引き締めにつながります。

しかし、1991年以降は預金準備率の操作は行われていません。また、公定歩合も政策金利として扱わなくなりました。

2001年に量的緩和政策導入

日本銀行は、政策金利を0%近くまで引き下げても景気が上向かなかったため、2001年から、金利ではなく量的な指標を目標とする「量的緩和政策」を開始します。

主な操作目標を「日本銀行当座預金残高」に定めた点がこの政策のポイントです。金融機関から国債を大量に買い入れることで、日本銀行の当座預金残高を目標値にまで近づけることを目指しました。

なお、この量的緩和政策は、2006年に解除されています。

2013年に量的・質的金融緩和政策導入

日本銀行は、2013年に長期国債の買入額を増やす「量的緩和政策」に加えて、買い入れる金融資産を多様化するなどの「質的緩和政策」も導入します。「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、できるだけ早期に実現しようとしたことが、「量的・質的金融緩和政策」を導入した主な理由です。

「量的・質的金融緩和政策」は、従来のやり方と異なるため「異次元緩和」とも呼ばれています。

2023年1月時点で金融緩和継続中

2016年に、日本銀行は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。「マイナス金利付き」とは、日本銀行当座預金の金利の一部をマイナスにすることを指します。

2023年1月現在も、日本銀行による金融緩和政策は継続中です。2023年1月の政策委員会・金融政策決定会合で「2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する」旨を発表しました。

金融緩和とは経済を活性化させるための政策

金融緩和とは、市場に出回るお金の供給量を増やすことで経済を活発化させる政策です。それに対して、市場に出回るお金の供給量を減らして経済の過熱を抑制する政策を金融引き締めと呼びます。

金融緩和は、為替や経済状況、物価などさまざまな分野に影響する政策です。株式投資をはじめた人は、今後日本銀行総裁の会見やニュースに注目し、金融緩和の状況を確認するようにしましょう。

ライター:Editor HB
監修者:鈴木 靖子(ファイナンシャルプランナー、AFP認定者)
監修者の経歴:
銀行の財務企画や金融機関向けサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わる中、その経験を人々の生活に活かすためにFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。フリーランスがお金の知識を持つことの大切さを実感しており、フリーランス向けマネーブログを運営している。

参考:日本銀行「金融政策は景気や物価にどのように影響を及ぼすのですか?」
参考:日本銀行「金融市場調節方針の変遷を教えてください。」
参考:日本銀行「準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか?」
参考:日本銀行「以前の「公定歩合」は、現在、どのように位置づけられていますか?」
参考:日本銀行「2%の「物価安定の目標」と「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」」

用語解説

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