社会保険料の決定方法には定時決定と随時改定がある?両者の違いについて解説

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社会保険料を算出する際の標準報酬月額の手続きには、定時決定と随時改定があります。手続きのタイミングや、対象が両者の違いです。

本記事では、社会保険料の定時決定のタイミングや随時改定の条件について詳しく解説します。

社会保険料はどうやって算出される?

毎月どれくらいの社会保険料を納めているか、給与明細を見ればわかります。しかし、給与明細からは、どのように算出されたかまでは読み解けません。

そこで、社会保険・社会保険料の概要や、標準報酬月額について理解しておくことが大切です。ここから、それぞれの内容を紹介します。

そもそも社会保険料とは?

社会保険料とは、各種社会保険に対してかかる保険料のことです。社会保険の種類には、医療(健康)保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労働者災害補償保険(労災保険)などがあります。

正社員のように、フルタイム(週所定労働時間および月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の場合も含む)で働く方は、社会保険の加入対象のため社会保険料を支払わなければなりません。また、一定規模の会社で働くパート・アルバイトの方も、要件を満たせば加入対象となることがあります。

なお、社会保険の種類によって、社会保険料の計算方法や労働者の負担割合などが異なる点に注意しましょう。社会保険料の詳しい内容については、以下の記事を参考にしてください。

社会保険料とは何かわかりやすく解説!標準報酬月額の概要もわかる

標準報酬月額が社会保険料の算出に関係する

各種社会保険のうち、医療(健康)保険や介護保険、厚生年金保険の社会保険料は、標準報酬月額を用いて計算します。ただし、労働保険(雇用保険と労災保険)は標準報酬月額を使いません。

標準報酬月額とは、対象年の9月から翌年の8月までを一単位として、従業員の給与などの平均額を各等級で分類したものです。医療(健康)保険、介護保険の標準報酬月額は5万8千円(第1級)から139万円(第50級)の全50等級、厚生年金保険は1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの全32等級に分けられています。

定時決定や随時改定というのは、標準報酬月額を決める際の決め方のことです。ここから、定時決定と随時改定に関する内容を詳しく解説していきます。

定時決定と随時改定の違いは?

定時決定も随時改定も社会保険の標準報酬月額の等級を決める点は共通していますが、対象や時期が異なります。それぞれの定義を確認していきましょう。

定時決定とは

定時決定は、標準報酬月額を毎年定期的に見直す決め方のことです。実際の報酬と大きな差が生じないようにするため、労働者の勤務先が提出する算定基礎届の内容に基づき、厚生労働大臣が毎年標準報酬月額を見直します。

前年より給与が増えても、標準報酬月額の等級が上がり社会保険料も高くなることによって、手取りはそれほど増えないことがある点を理解しておきましょう。

随時改定とは

随時改定とは、給与に大きな変動があった場合や給与体系が変更になったなど、一定の条件を満たす際に不定期に標準報酬月額を見直す決め方のことです。つまり、定時決定を行う前でも、随時改定の要件に該当する場合は標準報酬月額が変更になることがあります。

大幅な昇給や降給などで給与が変動すると、定時決定前に社会保険料は大きく変更されることがある点に注意しましょう。

定時決定のポイント

定時決定を理解する上で大切なポイントが、タイミングや対象です。それぞれ解説します。

定時決定のタイミング

定時決定のタイミングは、毎年7月以降です。決定した標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの各月に適用されます。

また、標準報酬月額の算出根拠となるのが、4月・5月・6月の報酬月額を平均した額です。そのため、4月から6月の残業が多くなれば、標準報酬月額も高くなり、社会保険料の負担が重くのしかかる可能性はあります。

定時決定の対象

定時決定の対象は、7月1日現在で健康保険・厚生年金保険の被保険者であるすべての従業員や、70歳以上の被用者です。正規社員より短時間の労働条件で勤務するパートやアルバイトなどの短時間就労者も対象ですが、3カ月間(4月・5月・6月)のうちの支払基礎日数によって決定方法が異なります。

●支払基礎日数が17日以上の月が1カ月以上ある場合、該当月の報酬総額を平均したものを標準報酬月額にする
●支払基礎日数がいずれも17日未満の場合、そのうち15日以上の月の報酬総額を平均したものを標準報酬月額にする
●支払基礎日数がいずれも15日未満の場合、今までどおりの標準報酬月額とする

なお、支払基礎日数とは、給与計算の対象になる労働日数のことです。

随時改定のポイント

ここでは、随時改定のタイミングや対象を解説します。

随時改定のタイミング

随時改定は時期に決まりがなく、条件に該当した時に実施されます。具体的に、固定的賃金の変動があった月から4カ月目が改定のタイミングです。

7月以降に実施した場合、再度随時改定がない限り、翌年8月(翌年9月以降は新たな定時決定で決める)まで改定で算出した標準報酬月額を毎月適用します。標準報酬月額の算出根拠となるのは、固定的賃金の変動月以降継続した3カ月間の間に支払われた報酬の平均額です。

3つの条件を満たす場合が対象

以下の3つの条件をすべて満たす従業員が、随時改定の対象です。それぞれの概要を確認していきましょう。

1.昇給や降給などで固定給が変動

年齢や職務上の昇格に伴い賃金が増加する昇給や、その反対に減少する降給などで固定的賃金(固定給)が変動することは要件のひとつです。固定的賃金とは、支給額や支給率が決まったものを指します。

昇給・降給以外に、以下も固定的賃金が変動する要因です。

・給与体系が変わる
・日当や単価が変わる
・住宅手当や役付手当といった固定的手当が追加される

また、報酬月額には通勤手当や事務所が提供する食事代も含まれます。昇給がなくても、家族手当や通勤手当などが変動することで該当する場合もあるため注意しましょう。

2.変動前後で標準報酬月額に2等級以上の差

変動前後で標準報酬月額に2等級以上の差が生じていることも、要件のひとつです。等級の幅は、各社会保険によって異なります。

たとえば厚生年金保険の場合、標準報酬月額22万円(報酬月額21~23万円)は15等級、標準報酬月額26万円(報酬月額25〜27万円)は17等級です(2023年度)。そのため、昇給に伴い報酬月額が22万円から26万円まで増加すれば、随時改定手続きの対象となりえます。

3.変動月以降3カ月間連続で支払基礎日数が一定基準を超過

1と2の要件を満たしていても、3カ月間連続で支払基礎日数が17日以上でなければ対象外です。たとえば、8〜10月の固定給が大幅に上がっても、そのうち1カ月間でも17日を下回る月があれば随時改定の対象とはなりません。

なお、支払基礎日数は、月給制・週給制の場合は暦日数、日給制や時給制の場合は出勤日数でカウントします。

定時決定と随時改定に関する疑問を解消しよう

最後に、定時決定と随時改定に関するよくある疑問について回答していきます。

定時決定と随時改定が重なるとどちらを優先?

定時決定は4月・5月・6月を基準に標準報酬月額を決定するのに対し、随時改定には決まりがありません。そのため、4月〜6月に随時改定の要件を満たすこともあるでしょう。

定時決定と随時改定が重なる場合、随時改定が定時決定に優先します。そのため、定時決定で算出した標準報酬月額が反映される前に、随時改定で社会保険料額が変わるでしょう。

ここまでの内容を図にまとめると、以下のイメージになります。

随時改定後いつ社会保険料に反映する?

社会保険料は、勤務先によって当月徴収する会社と翌月徴収する会社があります。勤務先で翌月徴収する場合、随時改定で変更した月の翌月分給与から引かれることが原則です。一般的に、従業員は給与明細から保険料の等級が変更したことを確認できます。

なお、随時改定の手続きは勤務先が行うため、従業員側での対応は必要ありません。

社会保険料算出に定時決定と随時改定が関係する

医療(健康)保険や厚生年金保険などの社会保険料を算出する際は、標準報酬月額を用います。また、標準報酬月額を算出する際の手続きが、定時決定と随時決定です。

定時決定と随時決定は、タイミングや対象が異なります。定時決定は7月以降に4月・5月・6月の報酬月額の平均から算出するのに対し、随時改定は3つの要件を満たしたときが変更のタイミングです。

具体的な要件として、「昇給や降給などで固定給が変動」「変動前後で標準報酬月額に2等級以上の差」「変動月以降3カ月間連続で支払基礎日数が一定基準を超過」の3つが挙げられます。昇給があった場合は、随時改定されていないか給与明細などでチェックしましょう。

参考:全国健康保険協会「標準報酬月額の決め方」
参考:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
参考:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。

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