マクロ経済学とは何に役立つ学問?基礎知識もわかりやすく説明
マクロ経済学とは、経済社会全体の動きを分析する学問です。学ぶことで、景気や国の政策などを理解するのに役立ちます。
本記事では、マクロ経済学の概要を説明した上で、三面等価の原則や有効需要の原理についてもわかりやすく説明します
マクロ経済学とは?
マクロ経済学とは、「巨大な(マクロ)」視点で政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動きを学ぶ経済学です。マクロ経済学では、モノ(財市場)・ヒト(労働市場)・カネ(債券・貨幣市場)が循環しているものとして考えます。
ここでは、マクロ経済学誕生のきっかけや、ミクロ経済学との違いについて確認していきましょう。
マクロ経済学誕生のきっかけ
経済学者のケインズが1936年に「雇用・利子および貨幣の一般理論」を発表したことが、マクロ経済学誕生のきっかけになったとされることが一般的です。
ケインズは、古典経済学の放任主義を批判し、失業が発生する原因は「有効需要」の不足にあると主張しました。アメリカのルーズベルト大統領が公共事業を実施し、失業者に仕事を与えた政策(ニューディール政策)は、ケインズの有効需要の考え方が具体化されたものです。
ケインズ経済学については、以下の記事も参考にしてください。
「ケインズ経済学とは何かわかりやすく解説!有効需要の概念も説明」
マクロ経済学とミクロ経済学の違い
ミクロ経済学は、マクロ経済学と並び、経済学の中心となる学問です。マクロ経済学が「巨大な(マクロ)」視点で経済社会全体の動きを分析するのに対し、ミクロ経済学は「狭い(ミクロ)」視点で分析する点が主な違いとして挙げられます。
ミクロ経済学が分析するのは、主に家計(個人)や企業です。需要曲線や供給曲線を使って、家計・企業の意思決定が商品の価格や取引量に与える影響を考えます。
経済学を正しく理解するには、マクロ経済学もミクロ経済学も重要です。
マクロ経済学は何に役立つ?
マクロ経済学は、国の政策が与える影響について分析する際に役立ちます。また、個と国などの経済全体で異なる便益のバランスをどのようにとるべきか判断する際にも、マクロ経済学の知識が欠かせません。
さらに、マクロ経済学を勉強すれば、テレビのニュースやSNSのトピックになる政府や日銀の政策について、より深く理解できるでしょう。
マクロ経済学で扱う原則
マクロ経済学で扱う主な原則は、以下のとおりです。
・三面等価の原則
・有効需要の原理
それぞれ詳しく解説します。
三面等価の原則
三面等価の原則とは、国内総生産(GDP)あるいは国民所得は、生産(付加価値)・支出(需要)・分配(所得)のいずれから計算しても同じになるという原則のことです。
三面等価の原則を表した式が、以下のとおりです。
・国内総生産(GDP) = 国内総支出(GDE) = 国民総所得(GDI)
また、国内総支出や国民総所得は以下の計算式で求められます。
・国内総支出(GDE) = 民間消費 + 民間投資 + 政府支出 + 輸出入
・国民総所得(GDI) = 賃金(雇用者所得) + 利潤(営業余剰) + 固定資本減耗(減価償却費) + 租税(間接税 – 補助金)
つまり、民間消費・民間投資・政府支出・輸出入がわかれば、三面等価の原則を用いて国内総生産の計算が可能です。
なお、三面等価の原則を国民所得の三面等価と表現することもあります。
有効需要の原理
有効需要とは、実際の貨幣支出を伴う需要のことです。「お金がないけれど車がほしい」という欲求は有効需要に含まれません。有効需要の原理とは、有効需要が総所得の大きさを決定するという理論です。
有効需要は、以下の式で表せます。
・有効需要 = 消費 + 投資 + 政府支出 + 純輸出(輸出 – 輸入)
純輸出は相手国の事情によって調整できないケースがあるため、国内で消費や投資が停滞している局面で有効需要を上げるには、公共事業などによる政府支出が必要です。
マクロ経済学で扱うモデルを簡単に紹介
マクロ経済学では、IS-LMモデルやAD-ASモデルを扱います。それぞれの特徴を確認しましょう。
IS-LMモデル
IS-LMモデル(分析)とは、経済政策の効果を計る際に役立つモデルです。分析には、IS曲線とLM曲線を使います。
IS曲線とは、財市場を均衡させる国民所得(国内総生産)と利子率を組み合わせた、右下がりで描かれるグラフです。一方、LM曲線とは、貨幣市場を均衡させる国民所得(国内総生産)と利子率を組み合わせたグラフで、右上がりで描かれます。
消費・投資・支出が増加(減少)するとIS曲線が右(左)に移動し、貨幣供給量が増加(減少)するとLM曲線が右(左)に移動する点がポイントです。また、2つの曲線が交わる点が、同時に財市場と貨幣市場を均衡させる、所得と利子率の組み合わせを示しています。
なお、IS-LMモデルのI(Investment)は投資でS(Savings)は貯蓄、L(Liquidity)が貨幣需要でM(Money Supply)が貨幣供給のことです。
AD-ASモデル
AD-ASモデル(分析)とは、財市場と貨幣市場を分析するIS-LMモデルを、労働市場まで広げたモデルです。国民所得と物価水準を組み合わせたAD曲線とAS曲線を使って分析します。
AD曲線は、右下がりの曲線です。一方、AS曲線は、ケインズ派は水平もしくは右上がり、新古典派は垂直の線を描きます。
AD曲線とAS曲線が交わる部分が、財市場均衡・貨幣市場均衡・労働市場均衡を成り立たせる地点です。
なお、AD-ASモデルのAD(Aggregate Demand)は総需要、AS(Aggregate Supply)は総供給を意味します。
マクロ経済学で使う指標・用語
マクロ経済学を学ぶにあたって、以下の指標や用語をあらかじめ理解しておくことが大切です。
・GDPや経済成長率
・失業率
・物価上昇率
・金利
・為替
それぞれ確認していきましょう。
GDPや経済成長率
GDP(国内総生産)とは、一定期間内にある国で新たに生み出された財やサービスの付加価値のことです。GDPには、物価変動の影響を受ける名目GDPと、物価変動の影響を排除した実質GDPがあります。
経済成長率とは、一定期間内にある国で経済規模が変化した割合のことです。一般的にGDPなどの指標が一年間でどれだけ増加したかによって経済成長率を判断します。
GDPについては、以下の記事も参考にしてください。
GDPとは国内総生産のこと!日本と各国の数字を比較
失業率
(完全)失業率とは、15歳以上の働く意欲のある人(労働力人口)のうち、求職活動をしても仕事に就けない人(完全失業者)の割合を示した数値です。一般的に、完全失業率は、以下の式を使って計算します。
・完全失業率(%) = 完全失業者数/労働力人口 × 100
失業率や有効求人倍率については、以下の記事も参考にしてください。
「有効求人倍率とは厚生労働省が発表する指標!計算をわかりやすく解説」
物価上昇率
物価とは、モノの値段のことです。物価上昇率は、ある時点を基準とした価格変動の上昇度合いを示しています。
物価上昇の度合いを計る指標のひとつが、消費者物価指数です。消費者物価指数を確認すれば、商品が基準時点からどれくらい上昇したかがわかります。
消費者物価指数について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
「消費者物価指数で物価変動を確認!算出方法やアメリカとの違いも解説」
金利
お金を一定期間貸し借りする際に、借りた人が貸した人に支払う費用(レンタル料)が「利息」です。そして「利息」がどれくらいの割合で発生するのかを表すのが「金利」です。預金や住宅ローンの金利は、各金融機関によって異なります。
金利を左右する主な要因が、景気・物価・為替相場です。一般的に、景気が良くなるときは個人消費の拡大・資金需要増が見込まれるため金利は上がり、不景気で個人消費が落ち込み資金需要が低下したときは金利が下がるとされています。
為替
為替とは、現金の代わりに手形や小切手などで決済する方法です。また、異国間で異なる通貨のやり取りをすることを「外国為替」と呼びます。
外国為替は、金利差や貿易収支、物価変動などの事情によって変動することが一般的です。外国為替が変動し、円の価値が他の通貨よりも相対的に低くなれば「円安」、高くなれば「円高」と呼ばれます。
円安・円高の具体的な内容については、以下の記事を参考にしてください。
円安・円高って何?これを読めばよりニュースを理解できる
マクロ経済学に関連する学問
マクロ経済学に関連する学問のひとつに、国際マクロ経済学があります。
国際マクロ経済学は、主に国際貿易論や国際金融論などで成り立つ経済学です。とくに国際金融論の国際収支や為替レートの決定を分析する際に、マクロ経済学の基礎知識が求められます。
そのほか、労働市場の仕組みを分析する労働経済学でも、マクロ経済学の知識が必要です。
マクロ経済学で経済社会全体を理解しよう
マクロ経済学とは、「巨大な(マクロ)」視点で政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動きを学ぶ経済学です。マクロ経済学を勉強すれば、テレビのニュースやSNSのトピックになる政府や日銀の政策について、より深く理解できるようになります。
GDPや金利など、よく話題になる指標もマクロ経済学との関係が深いです。マクロ経済学に興味を持った方は、まず三面等価の原則や有効需要の原理を理解しましょう。
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ミクロ経済学とは何かわかりやすく説明!何に役立つかも解説
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。