所得金額調整控除とは?対象者や計算方法をわかりやすく解説
総所得を計算する際に、所得金額調整控除(2020年に新設)で給与所得から一定の金額を控除できます。子どもや特別障害者などがいる給与所得者や、給与所得と年金所得を受け取っている人が利用可能です。基本的に、個人事業主やフリーランスには適用できません。
本記事で、所得金額調整控除を使えるケースや算出するまでの流れを理解しておきましょう。
所得金額調整控除とは
所得金額調整控除とは、総所得金額を計算するにあたって、条件を満たす場合に一定の金額を給与所得の額から控除できる制度のことです。「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」と「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」の2種類があります。
ここから、所得金額調整控除の設立背景や、適用できる対象者について確認していきましょう。
設立の背景
所得金額調整控除は、2020年の年末調整・確定申告より新たに創設された制度です。
同時期に給与所得控除の上限が220万円から195万円に引き下げられたことで、給与収入金額が850万円を超える世帯への税負担が重くなりました。また、給与所得控除と公的年金等控除の金額もそれぞれ原則10万円引き下げられています。
そこで、給与収入850万円超の子育て世帯や介護世帯、給与所得と年金所得がある人にのしかかる負担を抑えるために設けられたのが、所得金額調整控除です。
なお、給与所得控除とは給与所得を算出する際に給与収入から引く金額を指します。詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
給与所得控除とは?他の所得控除との違いや計算方法もわかりやすく解説
適用できる対象者
所得金額調整控除を適用できるのは、給与所得者です。給与所得者とは、主に以下を受け取っている従業員や役員などを指します。
・給料
・俸給
・賃金
・歳費
・賞与
例えば、副業をせず自らが営む事業のみで生計を立てている個人事業主やフリーランスには、所得金額調整控除を適用できません。また、給与所得者であっても、所得金額調整控除を適用するためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
所得金額調整控除を適用できるケース
給与所得者が所得金額調整控除を適用できるのは、以下に該当するケースです。
・子どもや特別障害者などがいる
・給与所得・年金所得の両方がある
各ケースの具体例について、詳しく解説します。
子どもや特別障害者などがいる
子どもや特別障害者がいるケースなどで、「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」を適用できる場合があります。
対象者は、対象年における給与などの収入金額が850万円を超える居住者です。居住者とは、日本に生活の中心(住所)があるか、日本に現実に1年以上居住している人を指します。
また、以下いずれかの要件を満たさなければなりません。
・本人が特別障害者に該当する
・23歳未満の扶養親族がいる
・特別障害者である同一生計配偶者か、扶養親族がいる
特別障害者とは、障害者に該当する人のなかで、身体障害者手帳に障害の程度が1級もしくは2級と記載されるなど、所定の要件を満たす人のことです。
給与所得・年金所得の両方がある
給与所得と年金所得の両方があるケースで、「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」を適用できる場合があります。
適用できるのは、対象年における給与所得控除後の給与などの額と、公的年金などにかかる雑所得が両方ある居住者です。また、それぞれの合計額が10万円を超えていなければなりません。
年末調整・確定申告で所得金額調整控除を受ける方法
所得金額調整控除を受ける方法は、年末調整で手続きするか、確定申告で手続きするかによって異なります。それぞれのやり方について、確認しておきましょう。
年末調整の場合
年末調整において、所得金額調整控除の申告に関係する用紙は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」です。ただし、2024年分は「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」を使います。
控除を適用可能な場合は、用紙の一番下にある「所得金額調整控除申告書」欄で、該当する要件部分にチェックを入れましょう。また、控除の対象となる同一生計の配偶者・扶養親族がいる場合はその氏名などの情報を記入します。
特別障害者に該当する場合は、交付されている手帳の種類・交付年月日・障害の等級などの事実の記載が必要です。「扶養控除等申告書」に記載している特別障害者と同一の場合は、「扶養控除等申告書のとおり」にチェックを入れるだけで構いません。
なお、年末調整とは源泉徴収された所得税額と本来の税額の差を調整する手続きのことです。年末調整について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参考にしてください。
年末調整とは所得税の過不足の調整作業!確定申告との違いも解説
確定申告の場合
給与所得と年金所得の両方がある場合などは、所得金額調整控除を確定申告で手続きする必要があります。
確定申告書で手続きする場合は、第一表の「収入金額等」欄にある「給与」の横の「区分」に該当する数字を記入します。先ほど紹介した「子どもや特別障害者などがいる」に該当する場合に記入するのが「1」、「給与所得・年金所得の両方がある」は「2」、両方に該当する場合は「3」です。
また、所得金額調整控除の対象で以下すべてに該当する場合は、第二表の「配偶者や親族に関する事項」の「その他」欄の「調整」に丸を付けます。
【対象となる配偶者がいる場合】
・配偶者がほかの納税者の扶養親族になっている
・配偶者が自身の「配偶者(特別)控除」対象とならない同一生計配偶者である
・配偶者が特別障害者である
【対象となる扶養親族がいる場合】
・扶養親族がほかの納税者の扶養親族、または同一生計配偶者になっている
・扶養親族が自身の「扶養控除」または「障害者控除」の対象ではない
・扶養親族が特別障害者または23歳未満である
なお、確定申告そのもののやり方について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
一歩間違うと、ペナルティの対象にも!確定申告の手順を図解【2024年版】
所得金額調整控除のポイント
給与所得者は、所得金額調整控除について以下のポイントを押さえておきましょう。
・複数から給与を受け取っている場合も適用できる
・2種類の所得金額調整控除を両方適用できる
・夫婦どちらも適用できる可能性がある
各ポイントについて解説します。
複数から給与を受け取っている場合も適用できる
複数から給与を受け取っている場合でも、所得金額調整控除を適用できる可能性があります。
給与収入が850万円以下でも副業で受け取る給与収入と合わせた額が850万円超であれば、対象年における給与収入額が850万円を超える居住者に該当するため、適用できる場合があります。ただし、2か所以上から給与をもらっている場合は、副業(従たる給与)分の年末調整はできないため、確定申告での対応が必要です。
2種類の所得金額調整控除を両方適用できる
23歳未満の扶養親族がいて給与所得と年金所得の両方を受け取っているケースのように、「子どもや特別障害者などがいる」と「給与所得・年金所得の両方がある」のどちらにも該当する場合は、両方の所得金額調整控除を適用できます。
まず「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」を適用し、残った給与所得の金額から「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」分を控除可能です。
夫婦どちらも適用できる可能性がある
所得金額調整控除は、要件を満たせば夫婦どちらも適用できる可能性があります。
具体例は、日本で暮らす夫婦の間に17歳の子ども(扶養親族)がいて、夫が会社員として1,000万円の給与収入、妻が会社員として900万円の給与収入を得ているケースです。どちらも「23歳未満の扶養親族がいる」「給与などの収入金額が850万円を超える居住者」を満たすため、それぞれが適用できます。
所得金額調整控除の計算方法
所得金額調整控除の計算方法は、「子どもや特別障害者などがいる場合」と「給与所得・年金所得の両方がある場合」で異なります。ここから、具体的な数字を使って計算してみましょう。
子どもや特別障害者などがいる場合の計算
子どもや特別障害者がいる場合などにおける、所得金額調整控除の額を求める式は以下の通りです。
・控除額(*) = (給与などの収入金額 − 850万円)×10%
「給与などの収入金額」が900万円の場合、850万円との差額が50万円のため控除額は5万円と計算できます(50万円 × 10%)。また、「給与などの収入金額」が1,000万円の場合は、控除額が15万円です。
なお、給与などの収入金額が1,000万円を超える場合、「給与などの収入金額」はすべて1,000万円として計算するため、控除額は最大で15万円です。
*控除額に1円未満の端数がある場合は、端数を切り上げる
給与所得・年金所得の両方がある場合の計算
給与所得・年金所得の両方がある場合における、所得金額調整控除の額を求める式は以下の通りです。
・控除額 =(給与所得控除後の給与などの金額 + 公的年金などにかかる雑所得の金額)− 10万円
「給与所得控除後の給与などの金額」と「公的年金などにかかる雑所得の金額」いずれも、10万円を超える場合は「10万円」として計算します。そのため控除額は最大で10万円です。
65歳未満で年収900万円(給与収入860万円・年金収入40万円)のケースで、控除額を計算してみましょう。
「給与所得控除後の給与などの金額」は665万円(860万円 − 195万円)、「公的年金などにかかる雑所得の金額」は0円(公的年金収入が60万円以下のため)です。そのため、この場合の控除額は0円になります((10万円 + 0万円)− 10万円)。
続いて、65歳以上で年収1,000万円(給与収入700万円・年金収入300万円)のケースで、控除額を計算してみましょう。
「給与所得控除後の給与などの金額」は510万円(700万円 − 190万円)、「公的年金などにかかる雑所得の金額」は190万円(公的年金収入が110万円超330万円未満のため)です。よってこの場合は控除額10万円を適用できます((10万円 + 10万円)− 10万円)。
所得金額調整控除とは給与所得から一定額を控除できる制度
所得金額調整控除とは、総所得金額を計算するにあたって、給与所得から一定額を控除できる制度です。子どもや特別障害者などがいる場合や給与所得・年金所得の両方がある場合に、適用できる可能性があります。
夫婦どちらも要件を満たす場合は、それぞれ適用できる点がポイントです。また、複数の勤務先から得た給与の合計額が850万円超の場合でも適用できる場合があります。
所得金額調整控除を適用できれば税負担の軽減につながる可能性があるため、自分は該当するのかを事前に把握しておきましょう。
参考:国税庁「No.1411 所得金額調整控除」
参考:国税庁「No.1160 障害者控除」
ライター:Editor HB
監修者:鈴木 靖子(ファイナンシャルプランナー、AFP認定者)
監修者の経歴:
銀行の財務企画や金融機関向けサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わる中、その経験を人々の生活に活かすためにFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。フリーランスがお金の知識を持つことの大切さを実感しており、フリーランス向けマネーブログを運営している。