「リスク」の常識・非常識

日経記事で学ぶ~幸福寿命を延ばす投資術10

提供元:日本経済新聞社

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資産形成3原則とリスク<リターン

米中央銀行トップのパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の記事をピックアップしてみました。日経電子版では毎日大量のニュースが配信されますが、パウエル議長の記事は常にトップクラスの重要性です。彼は「不確実性」という言い方をしています。とても難しい用語に思えますが、なんのことはない「リスク」のことです。
もう、おわかりですよね?

事実、世界の金融・株式市場はパウエル議長の懸念どおりの展開になりました。トランプ関税発動で米国株安、債券安(金利上昇)、ドル安――のトリプル安が一気に進み、慌てたトランプ大統領が政策を翻意したほどです。6月現在も不安定な市場環境であることには違いありません。このように先行きが読めない=不確実さこそがリスクです。

いささか難しい内容に入っていきますが、資産形成の3原則(1)長期(2)つみたて(3)分散――を考えてみましょう。この3原則を守っていれば、なぜトランプショックなどに耐え抜いて資産を増やせるのでしょうか?

仮に日本株の変動幅(高値と安値)を計算するとおおむね年間25%~35%のゾーンで動いています。米国株もそれほど変わりません。100万円で投資した場合、±15万円程度変動する、あるいは高値で買った場合は最悪65~70万円まで下がる、という計算になります。

ではリターンはどうでしょうか?

確実に出るとみられるのが配当や分配金などのインカムです。株式なら2%前後でしょう。しかし、2%が確実に出たところで先ほどのリスク30%にはまったく及びません。

完全なリスク>リターンですから、元本の変動や投資のタイミングによっては損失(マイナス・リターン)になる可能性が高いわけです。半年や1年ではこの状態を解消できませんから、短期売買では資産形成を成し得ないわけです。

こうした個々のマーケット、商品においてリスク自体は構造的に増えたり、減ったりすることがありません。つまり、株式相場のリスクが2000年代は10%だったがいまでは5倍の50%になったとか、昔はハイリスクだったがいずれローリスクに変わるというようなことはありません。個々の商品・マーケットのリスクは毎年ほぼ一定です。

ところがリターンは必ず増え続けます。原理原則でいえば、世界経済は必ず成長し続けます。リセッション(景気後退)などで波は繰り返しますが基本的には右肩上がりです。全体で見た企業業績は増え続け、1株当たりの株式価値が高まります。ここに配当が加わってリターンはどんどん積みあがります。

日本企業の場合、単純計算で平均年8%増(最終利益で前期比6%増+配当2%)のペースで株式価値が上がっていくと仮定しましょう。この場合4年目でリターンは36%。リスクの上限値を35%とすると4年目でリターン>リスクに転換し、リターンがリスクを追い抜きます。

ちなみに日経平均株価連動型のインデックス投信は2025年5月現在、10年間の平均リターンが年率8.2%前後です。実績でみても10年間で累積リターンが2倍を超えます。この段階までくると、相場が2割、3割下がろうが、35%変動しようが問題になりません。トランプ関税などのショック安で含み益が少々減ることはありますが、リスク<リターンの状態が定着します。

2008年秋のリーマンショックでは100年に1度の暴風雨と称され、米国株が1年で半値近くまで下がりました。いわばリスクは50%近くに達したわけですが、ダウ平均などの指数は2年も経たず急落前の水準を回復しました。

最後にまとめます。ハイリスクの株式で資産形成ができるカラクリはハイリスク・ハイリターンというギャンブル的な要素があるからではなく、長期間資金を投じることでハイリスク>リターンをハイリスク<リターンに変えていく作業だということになります。

書籍や投資サイトなどにも掲載されていない内容をこってり解説しましたが、ここを押さえておくとマーケットニュースを解読する力が一気に底上げされるはずです。

言われてみればたしかに……本コーナーではマネーに関する気づきや新しい常識を解説していきます。拙著(下記リンク)を副教材として併読していただけると高いリテラシーが身につきます。今回のテーマに掲げた金利と投資についてもわかりやすく解説しています。本ブログの参考になる日経電子版記事を紹介しておきます。

【参考記事】
FRB議長、不確実性「異常な高まり」 政策金利は維持(日経電子版 2025年3月20日)
新NISA元年、「投資信託つみたて」定着 20代は比率5割に(日経電子版 2025年2月1日)

著者/ライター
田中 彰一
日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員。マーケット・企業取材歴35年と現役最古参。日経電子版の開発、ニュースレター連載、テレビ解説と「創る・書く・話す」の三刀流をこなす。CFP認定者、シニア・プライベートバンカー、宅建士。東証マネ部!の長寿コラム「日経記事でマネートレーニング」はデジタル小冊子に(無料ダウンロード可)
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