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中国政府が値下げ競争の抑制に本腰

鉄鋼、太陽光発電、EV等の過剰設備に大ナタか

提供元:東洋証券

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政府が無秩序な価格競争を管理する方針

7月9日に発表された6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+0.1%と5カ月ぶりにプラスへ転じたものの、生産者物価指数(PPI)は同▲3.6%と22年10月以降、前年比低下が続いている。販売価格の低下は企業業績の悪化や給与の減少を通して、消費を押し下げる要因となる。更に、企業の不良債権が増加する可能性もある。

また、欧米では中国の安価な製品、特に鉄鋼製品、太陽光パネル、EV等が大量に流入し、欧米政府は流入抑制のため高率関税他の対策を既に実施、または検討している。安価な中国製品が欧米との貿易摩擦の主因ともいえ、米国との貿易協議では採算を度外視した価格設定が問題になっているとみられる。

このため、習近平国家主席は7月1日に主催した中央財経委員会第6次会議で、全国統一市場の建設を推進する方針を示し、特に、企業による無秩序な価格競争を法によって管理し、製品の質を高め、段階的に古い生産施設を削減する方針を示した。

「供給サイドの改革」を強化か

中国の粗鋼生産は世界の53%(24年)を占め、国際価格への影響が大きい。10年以降、中国のGDP成長率の減速に伴い、鉄鋼やセメント等の過剰設備が表面化し価格が下落したことから、習近平国家主席は15年に「供給サイドの改革」に着手。鉄鋼、石炭、セメント等の過剰設備産業にメスを入れ、鉄鋼産業では粗鋼生産能力を15年の11.3億トンから18年には10.3億トンへ削減、熱延鋼の価格は15年12月の364米ドル/トンから18年6月には924米ドル/トンへ上昇した。中国政府は当時のデフレ脱却know-howを再度、今回の過剰生産、過剰競争の抑制に生かすと見込まれる。

鉄鋼生産能力削減のため政府が近く政策発表へ

鉄鋼生産については、政府は21年に過剰設備抑制のため「鉄鋼業生産能力置換実施弁法(改正版)」を実施。生産設備の拡大と旧式生産能力の廃棄の比率を規程、強化した。今年5月には最新改訂案の初稿が発表され、従来、新規設備建設の際には、他社の生産能力削減と相殺が可能であったが、今回の改訂版では禁止され、企業の買収を促進し企業内での生産設備の置き換えを積極化し、能力削減を図るようだ。ちなみに、1~5月の中国の粗鋼生産は、輸出に対する不透明感もあり前年比▲1.6%となった。

7月1日の政府の方針を受け、鉄鋼製品価格や鉄鉱石価格は既に反発しつつあるようだ。なお、7月11日の鉄鉱石価格は6月末比+6.5%と、鉄鋼製品より一足早く価格が上昇している。

太陽光パネル関連の株価は既に反発

李楽成工業情報化相は7月3日に開催された太陽電池産業14社との会合で、「無秩序な低価格競争を総合的に管理する」と発言した。太陽光パネルは技術の進歩に伴い発電能力当たりの価格が低下する傾向にあるが、20年以降は急ピッチに下落し、20年初めの0.680米ドル/ワットから25年6月には0.35米ドル/ワットと、5年数カ月で半値近くとなった。生産設備の拡大で供給過剰に陥り価格が急落したと推測される。今後は政府の設備削減の方針を受け、生産設備が3割程度削減されると見込まれる。

太陽光パネルの原料であるポリシリコンの価格は既に反発しており、7月2~9日で6.3~6.9%上昇したと報じられている。

電気自動車は価格引き下げをしないよう販売店に指示

世界最大の新エネ車メーカー、BYD(01211)は6月末にかけて製品価格の大幅な引き下げに動くと、5月後半には中国政府や中国汽車工業協会が過度な価格引き下げを抑制するよう自動車メーカーに促した。6月になるとBYDは国内の一部工場で生産能力を削減、販売店に対し価格引き下げをしないよう指示、違反した販売店には罰則が課すと通告した。

また、リチウム・イオン・バッテリーの生産者は既に生産を削減しバッテリーの最低価格を設定している模様。

ネット販売の過剰な安売りに規制

6月27日に全国人民代表大会常務委員会が改正反不正当競争法を可決。通販事業者や、配車や出前サービスを手掛けるアプリ運営企業が出展社らに経費を下回る価格での販売やサービスの提供を強要する「市場の競争秩序を乱す」行為を禁じる。また、手数料についても、今年5月末には「出展者の経営状況を考慮した合理的な水準」に設定する内容の政策案が発表された。プラットフォーマー各社は既に手数料引き下げに動いている。

鉄鋼、太陽光パネル銘柄に注目

今回の政府による「値下げ競争の抑制」の方針は、過剰設備をかかえる鉄鋼や太陽光パネルメーカーなどの過剰設備を抱える製造業の利益にはプラスに働き、プラットフォーマーの利益にはマイナスに働くであろう。宝山鋼鉄(600019)や隆基緑能科技(601012)、アリババグループ(09988)の株価は既に政策効果を織り込みつつある。

(提供元:東洋証券)

著者/ライター
白岩 千幸
米ハーバード大学大学院で開発経済学を専攻、世界銀行で調査、国連では途上国の開発プロジェクトに従事。その後、英運用会社で中国を含むアジア株ファンドマネージャー。現在は東洋証券で中国経済、株式の調査に従事。CFA(米国証券アナリスト資格)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、中国経済経営学会会員、著書「ポスト団塊世代の資産運用」(共著)
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