ノーベル経済学賞とは?受賞者やノーベル賞との違いを解説
ノーベル経済学賞とは、経済分野で功績をあげた研究者に対して贈られる賞を指します。ノーベル財団ではなく、スウェーデン国立銀行から賞金が拠出されている点が、ノーベル賞との違いです。
受賞者の研究内容や成果は、私たちの身の回りの経済にも大きく関わっています。そのため、ノーベル経済学賞に関する知識を深めることで、ビジネスに役立つ場面もあるでしょう。
本記事では、ノーベル経済学賞とはどのような賞なのかを説明したうえで、主な受賞者や受賞までの流れについても解説します。
ノーベル経済学賞とは?
ノーベル経済学賞とは、経済学に関する研究結果を発表し、大きな功績をあげた研究者に対して贈られる賞のことです。スウェーデン国立銀行(中央銀行)によって設立され、1969年より第1回の授与が始まりました。
なお、ノーベル経済学賞の正式名称は、「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」です。
ノーベル経済学賞とノーベル賞の違い
どちらも「ノーベル」の名が使われていますが、ノーベル経済学賞とノーベル賞は別の賞との考え方もあります。主な違いは、設立されたタイミングや賞金の出所です。
ノーベル賞は、スウェーデン出身の発明家、アルフレッド・ノーベルの遺言に基づき、1901年に創設されました。受賞対象となるのは、「物理学」「化学」「生理学・医学」「文学」「平和」の5分野で人類に最大の貢献をもたらした人々です。
一方、ノーベル経済学賞はノーベルの遺言に含まれておらず、1969年にスウェーデン国立銀行の創立300周年を記念して設立されました。そのため、ノーベル賞5分野の賞金はノーベル財団から拠出されているのに対し、ノーベル経済学賞の賞金はスウェーデン国立銀行から拠出されています。
なお、同様の選考過程を経て同じタイミングで授賞式が行われるため、ニュースなどではノーベル経済学賞もノーベル賞も同じように扱うことが一般的です。
ノーベル経済学賞の主な受賞者
2025年のノーベル経済学賞は、ジョエル・モキイア教授、フィリップ・アギヨン教授、ピーター・ホーウィット教授に授与されることが決まりました。受賞理由は、「イノベーション主導の経済成長の説明(“for having explained innovation-driven economic growth”)」です。
ノーベル経済学賞設立以降、主な受賞者は以下の通りです。
・ミルトン・フリードマン
・ジョン・ナッシュ
・ダニエル・カーネマン
・ポール・クルーグマン
・クラウディア・ゴールディン
ここから、各氏の功績を紹介します。
ミルトン・フリードマン(1976年受賞)
ミルトン・フリードマンは、マネタリズムと呼ばれる貨幣理論を主張した経済学者です。1976年に、ノーベル経済学賞を受賞しました。
フリードマンは、シカゴ学派として新自由主義の思想にも大きな影響を与えています。新自由主義とは、政府による介入を最小限にとどめて、自由競争により経済の効率化や発展を目指すべきという考え方です。
新自由主義については、以下の記事も参考にしてください。
ジョン・ナッシュ(1994年受賞)
ジョン・ナッシュは、主にゲーム理論の研究で功績をあげた経済学者です。非協力を前提にしたゲームにおけるプレーヤーの均衡状態(ナッシュ均衡)を提唱したことがきっかけで、1994年にノーベル経済学賞を受賞しました。
なお、ナッシュの数奇な半生はのちに映画化され、2002年のアカデミー賞において作品賞などを受賞しています。
ダニエル・カーネマン(2002年受賞)
ダニエル・カーネマンは、エイモス・トヴェルスキーとともに行動経済学の学問を開拓した人物です。「人は合理的に行動する」という経済学の考え方に心理学の要素を導入し、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。
行動経済学は、ビジネスにおけるマーケティングや投資分野などにも活用できる学問です。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
行動経済学とはどんな学問か簡単に説明!マーケティングとの関係も紹介
ポール・クルーグマン(2008年受賞)
ポール・クルーグマンは、新貿易理論を提唱した経済学者です。「貿易パターンと経済活動の立地に関する分析(“for his analysis of trade patterns and location of economic activity”)」を理由に、2008年にノーベル経済学賞を受賞しました。
クルーグマンは、ケインズ経済学者に分類されることもあります。ケインズの理論については、以下の記事も参考にしてください。
ケインズ経済学とは何かわかりやすく解説!有効需要の概念も説明
クラウディア・ゴールディン(2023年受賞)
クラウディア・ゴールディンは、男女の賃金格差について研究を進めている経済学者です。
「女性の労働市場における成果についての理解を深めた(“for having advanced our understanding of women’s labour market outcomes”)」として、2023年に女性で3人目のノーベル経済学賞受賞者に選ばれました。男性との共同受賞でないケースとしては、ゴールディンが初の受賞者です。
ノーベル経済学賞を受賞するまでの流れ
ノーベル経済学賞の選考には1年間かかります。研究者がノーベル経済学賞を受賞するまでの流れは、以下の通りです。
1. 推薦者から候補に挙げてもらう
2. スウェーデン王立科学アカデミーで選考される
3. 最終選考でアカデミー会員から選ばれる
4. スウェーデン・ストックホルムで授与式に参加する
それぞれ解説します。
1. 推薦者から候補に挙げてもらう
ノーベル経済学賞を受賞するためには、推薦者から候補として挙げてもらわなければなりません。
授与式の前年9月ごろ、推薦を求める文書が世界中の学者たちに送付されます。自分を推薦することや、文書が送られていないにもかかわらず候補者を推薦することはできません。
提出期日は翌年1月31日で、以降推薦を受けた人物のなかから受賞候補が選定されます。
2. スウェーデン王立科学アカデミーで選考される
スウェーデン王立科学アカデミーで候補者を選考し、絞り込んでいきます。選考委員会が専門家と協議しながら2月から厳密な調査や厳正な審査を進めていき、最終的な候補者が決まるのは9月です。
なお、ノーベル賞の生理学・医学賞、平和賞、文学賞については、スウェーデン王立科学アカデミーと異なる機関で選考が進められます。
3. 最終選考でアカデミー会員から選ばれる
10月初旬に実施されるアカデミー会員による最終選考で、受賞者が決まります。決め方は、投票による多数決です。
決定後、全世界に受賞者の氏名が公表されます。2025年の場合は、10月13日に発表されました。
なお、「誰が誰を推薦したか」「どのような意見があったか」など選考に関する情報は、50年間一切公表されません。
4. スウェーデン・ストックホルムで授与式に参加する
受賞者は、毎年12月にスウェーデン・ストックホルムで開催される授与式に参加します。
2025年のノーベル経済学賞の賞金は、1,100万スウェーデン・クローナ(約1億7,500万円)でした。ただし、授与年によって賞金の額が変動することがあるでしょう。
授与式後には、スウェーデン・ストックホルムの市庁舎ホールで晩餐会が開催されます。
ノーベル経済学賞の豆知識(2025年9月30日時点)
ノーベル経済学賞には、以下のような豆知識もあります。
・日本人受賞者はいない
・エスター・デュフロ氏が最年少で受賞している
・故人は受賞できない
それぞれ押さえておきましょう。
日本人受賞者はいない
これまで、日本人でノーベル経済学賞を受賞した人はいません。
日本発の理論が少ない点、英語で論文を執筆する必要がある点などが、主な要因といえるでしょう。ただし、ノーベル賞の物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞については、いずれもすでに日本人受賞者が誕生しています。
なお、ノーベル経済学賞はそもそもアジア人の受賞自体が多くありません。1998年にインド出身のアマルティア・セン氏がアジア人として初めて受賞しています。
エスター・デュフロ氏が最年少で受賞している
ノーベル経済学賞を最年少で受賞しているのは、エスター・デュフロ氏です。2019年に、最年少(46歳)かつ女性として2番目にノーベル経済学賞を受賞しました(アビジット・バナジー氏とマイケル・クレマー氏ともに受賞)。
「世界的な貧困を緩和するための実験的アプローチ(“for their experimental approach to alleviating global poverty”)」が受賞の理由です。
故人は受賞できない
ノーベル賞やノーベル経済学賞は存命であることが条件として授与されるため、故人は受賞できません。例えば、ダニエル・カーネマン氏とともに行動経済学に多大なる影響をもたらしたエイモス・トヴェルスキー氏は2002年時点ですでに他界しており、カーネマン氏のみがノーベル経済学賞を受賞しています。
なお、2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞したラルフ・スタインマン氏は例外的なケースです。すでに死去していることを知らずに選考を進めて決定していたため、予定通りスタインマン氏にノーベル賞を授与しています。
ノーベル経済学賞は6つ目のノーベル賞
ノーベル経済学賞は、アルフレッド・ノーベルの遺言に含まれておらず、厳密には「ノーベル賞」ではありません。ただし、物理学賞や化学賞と同じ機関で選考される点や、同じタイミングで授与される点などを踏まえると、「物理学賞」「化学賞」「生理学・医学賞」「文学賞」「平和賞」に続く6つ目のノーベル賞ともいえるでしょう。
ダニエル・カーネマン氏の行動経済学のように、ノーベル経済学賞受賞者の研究はビジネスにも深く関わっています。今後、受賞者がどのような研究をしているのかについても注目してみてください。
参考:文部科学省「見てみよう 科学技術 ノーベル賞ってなに?」
参考:Nobel Prize Outreach 2025「All prizes in economic sciences(英語)」
参考:Nobel Prize Outreach 2025「Nomination and selection of economic sciences laureates(英語)」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。


