日本経済新聞社編集委員・小平龍四郎さんインタビュー 前編

日経編集委員が振り返る“失われた30年”の過ちと功績

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山一証券が“自主廃業”に至った理由

――90年代前半から制度が整備されていったものの、すぐに改善されずに“失われた30年”へと突き進んでいってしまったのは、なぜだといえるでしょうか?

小平 日本企業も証券会社も、日本的経営に非常に自信を持っていたからだといえます。バブル期に日経平均株価が最高値を更新したわけですから、なかなかその考え方や慣習を捨てられなかったんですよね。

日本的経営の代表例が、山一証券の取締役会。1997年に山一証券が自主廃業したときの取締役会は取締役が40人もいて、全員が年功序列で社内から引き上げられた男性でした。そのほとんどが三木淳夫社長の同期で、「飛ばし」などの不正を知っても騒ぎ立てない人物ばかりだったため、「お友達クラブ」と呼ばれていました。不正にまみれていた山一証券は結果的に破綻しましたが、日本企業を象徴する出来事だったと感じます。

――ほかの企業や証券会社も、破綻する可能性があったということですか?

小平 大いにあったでしょうね。山一証券は簿外の損失を隠し切れなくなりましたが、同じように簿外で損失を抱えている企業はあったので。ただ、責任問題に発展するから損失を認めるわけにはいかないし、株式や不動産を持っていればなんとかなるだろうという思考も強かった。悪いことは隠しておけば改善する、といった楽観的な見方がされていたのでしょう。

バブル期の強烈な株価上昇の余韻から、抜け出せていなかった部分もあると思います。そんな状況から数年が経ち、にっちもさっちもいかないんだと気付かせてくれたのが、山一証券の破綻だと思います。

――先ほどカルパースからの社外取締役の要請の話もありましたが、早い段階で外部の目を入れたりしていれば、不正を見直すことができて、破綻も免れたかもしれないということですよね。

小平 その通りですね。今回、『山一前後』を書いたのは、「ディスクロージャー(情報開示)は極めて大事だ」というメッセージを伝えたい思いもあったからです。

2000年代は日本市場の“停滞期”

――山一証券の自主廃業が証券業界や日本社会に与えたインパクトで、もっとも大きかったところはどこでしょうか?

小平 グローバルスタンダードを意識せざるを得なくなった、という点だと思います。山一証券破綻の前後で、日本版金融ビッグバンが始まったんですよね。日本の金融サービスや市場を海外に開放し、外国のプレイヤーと切磋琢磨して、サービスや市場の質を高めていこうという改革です。

実際、山一証券の破綻後にはアメリカの証券会社・メリルリンチが上陸したり、ナスダック・ジャパンが開業したりするといった動きがありました。会計やコンプライアンス、ガバナンスの改革もこの頃から始まりました。日本的経営だけでは立ち行かないことがわかってしまって、やや過剰な部分もあったかもしれませんが、グローバル化を推し進めたと。

――ただ、『山一前後』のなかでは、2000年代に入ってからもグローバル化が素早く進んだわけではなかった、と書かれていましたよね。

小平 銀行の不良債権処理が遅れたことが理由のひとつではありますが、不運なこともいろいろ起きたんですよね。2006年頃に不良債権問題の目処が立ったのですが、2008年にリーマン・ショックが起きてしまった。2011年には東日本大震災が発生し、政権交代も続いて、世の中が混乱しました。この期間は、市場も停滞期にあったといえるでしょう。

ただ、振り返ってみると、山一証券や北海道拓殖銀行などの大手金融機関が相次いで破綻した1997年の日本版金融危機以降、日本発でグローバルマーケットを混乱させるようなことは起きていないんです。海外での金融危機や災害による影響ばかりだったので、ここは日本がもう少し誇ってもいいところだと思います。

――その停滞期に制度を改善していったからこそ、いまの日経平均株価最高値につながっているわけですよね。

小平 日本も大きく変わってきましたよね。例えば、決算発表ひとつ取っても、かつては単体決算が主で、連結決算は無視されていました。だから、関連会社の業績が悪かったり含み損があったりしても、誤魔化せていたんです。

しかし、いまは連結決算が主で、含み損があれば評価損にしたり減損したりするといった対応を取るのが一般的です。連結決算と時価会計は山一証券破綻後に導入されたグローバルスタンダードのひとつで、現在の日本企業の投資判断やリスク管理に大きく影響しているといえます。

日本の証券市場の変化を、ぎゅっと凝縮して話してくれた小平さん。後編では、現在の株価高騰に対する思いや今後の日本に期待することを伺う。

(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
小平 龍四郎
日本経済新聞社編集委員。早稲田大学第一文学部卒業後、日本経済新聞社に入社。証券部記者として「山一証券、自主廃業」や「村上ファンド、初の敵対的TOB」などを取材・報道。欧州総局、証券部編集委員、論説委員、アジア総局編集委員などを経て、現職。著書に『アジア資本主義』『ESGはやわかり』など。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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