日本経済新聞社編集委員・小平龍四郎さんインタビュー 後編
日経編集委員が考える“失われた30年”を抜け出した日本の行く先
熱心な個人投資家にこそ伝えたいこと
――前編で「同じことを繰り返さないために」という思いで『山一前後』を書かれたとお聞きしましたが、バブル期を知らない世代にとって、当時の不祥事の内容は衝撃的です。
小平 若い方々と話すと、「バブル期は景気がよくてキラキラしている」「私もバブルを経験したい」とおっしゃる方がいて、憧れみたいなものを抱いているのかなと感じます。しかし、実際は先ほども話したようにデタラメだらけの社会だったわけなので、あまり美化しちゃいけないなと。だから、当時の状況を正しく知っていてほしいと思います。
一方で、非常にリテラシーの高い個人投資家が増えたなという印象も受けています。投資をしっかり勉強している方が多いのか、SNSで市場の見方などを解説している投稿のなかには、的確なものも少なくないんですよね。
――個人投資家のリテラシーの向上は、NISAやiDeCoなどの制度ができて、投資の間口が広がったことも関係しているのでしょうか?
小平 大いにあると思います。それに加えて、東京証券取引所の企業に対する「資本コストや株価を意識した経営」の要請などが非常に効いていて、企業側がIRに力を入れるようになってきたことも、個人投資家が増えている理由のひとつではないでしょうか。株主総会も昔と比べると非常に開かれていて、個人投資家の参加も増えていますよね。
最近は、アクティビストが手間ひまかけて作成した資料も公開されています。その資料には企業の問題点などが提示されていて、個人投資家の気付きや学びにもなっているでしょう。バブル期はそういうものがまったくなくて、企業の情報は閉じようと思えばいくらでも閉じられた。情報へのアクセスの仕方や接点の数が大きく変わってきているという点も、個人投資家増加につながるところですよね。
――環境も整ってきているということですよね。そのような状況のなかで、個人投資家に伝えたいことはありますか?
小平 最近気になるのが「NISA貧乏」です。将来への不安からNISAの積立額を大きくしすぎてしまい、日々の生活にお金が回らなくなってしまう状態を指す言葉です。将来に向けて備えることは決して悪いことではありませんが、いまの自分や家族に投資することも大切なので、もう少し肩の力を抜いてもいいのかなと思います。
我々メディアが「年金は出ない」と言いすぎてしまったので、反省すべき点ではあるのですが、すべて自己責任でやらないと老後の生活は成り立たないと思ってしまっている人が多いんですよね。そんなことはなくて、公的な制度や会社の制度などがあることも知っておいてほしいですね。
投資に関しては、言うまでもないことかもしれませんが、手っ取り早く儲けようと思わないこと。焦ると、妙な金融商品に誘導されてしまうかもしれません。目先の利益だけではなく、企業が発行している統合報告書や有価証券報告書などを読み、中長期の計画や目指している方向、経営者のビジョンなどを丁寧に把握することで、自分の感性と合う投資先が見つかると思います。


