日本経済新聞社編集委員・小平龍四郎さんインタビュー 後編
日経編集委員が考える“失われた30年”を抜け出した日本の行く先
改めて世界に“日本的経営”をアピールするとき
――『山一前後』の最後で、「グローバル化を進めながら、日本の伝統的な強みを世界に訴えるタイミングだ」という思いを書かれていますが、日本の伝統的な強みとはどこにあるのでしょう?
小平 世界では「シェアホルダー(株主)主義」対「ステークホルダー(利害関係者)主義」の論争が絶えず、欧米ではシェアホルダーを重視してきたことで、格差と分断が進んでいるといえます。
その点、日本企業はステークホルダーを大切にする調和やコミュニティが重視されてきました。それがよくない方向に働いてしまったのがバブル前後。前編で触れた山一証券の「お友達クラブ」はその象徴ですし、バブル崩壊後、多くの企業は社員や支店などを切れずに苦労しました。
しかし、グローバル化が進んだいま、シェアホルダーの存在も大切にしているからこそわかることは、片方だけを重視すればいいわけではないということでしょう。ステークホルダーを大切にすることで企業価値向上につながるし、シェアホルダーもステークホルダーに含めた新しい経営思想を形成して実践している企業もあります。日経平均株価の調子がいいいま、グローバル化と伝統的な経営の両方のよさを日本から発信できるタイミングにあるといえます。
――いい塩梅を見つけていけると、社会や市場が極端に傾くこともないということですよね。
小平 そうはいっても、日本も極端になりがちなんですけどね。1990年代から2000年初頭の日本は「雇用」「設備」「債務」が過剰だといわれていました。そこからグローバル化が進んだ日本企業を、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏は「オーバー・プランニング(計画過剰)」「オーバー・アナリシス(分析過剰)」「オーバー・コンプライアンス(統制過剰)」と表現したんです。反動で、正反対の3つが過剰になってしまったと。
日本の真面目さによるものではあるのですが、グローバル化にあたって、数値基準を掲げて頑張りすぎてしまったんでしょうね。「計画」「分析」「統制」の過剰から、抜け出すときに来ているのだと思います。
――日本の証券業界だけでなく社会全体が、新たなフェーズに入ってきているということですね。
小平 そうですね。日本株が見直されてきているので、新たな経営に乗り出し、世界に発信できるタイミングでもあるといえます。いまでもアメリカが依然として世界中のお金を引き付けており、世界一の株式市場であることは変わらないのですが、アメリカに集中しすぎているから見直そうという気運も高まっているので、日本が再び注目を集める可能性はあるでしょう。
株価が高騰している日本で何が起きているのか、日本企業の経営はどうなっているのか、海外で興味を持っている人は多いと思います。日本の伝統的な強みをアピールするチャンスですよね。
“失われた30年”を経て、新たな過渡期を迎えようとしている日本。ここからの社会がどう変わっていくのか、いち労働者としてもいち投資家としても見逃せない。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)



