まだ見ぬ将来世代の利益を考慮した意思決定「フューチャー・デザイン」前編
大阪大学教授が語る「将来世代視点」が事業戦略にもたらす影響
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未来にタイムスリップして現代を振り返る仕組み
「フューチャー・デザイン」分野で特に研究や実践が進むアプローチが「仮想将来世代(将来省)」と呼ばれる仕組みを取り入れること。
「『仮想将来世代』とは、“まだ見ぬ将来世代”の視点で現在の意思決定を考察する仕組みです。2050年や2100年に生きている世代の視点に立ち、その時点からいま我々が行っている意思決定やアクションの考察・評価を行っていきます。将来世代の視点を取得する有効な手段は、2050年まで生きた未来の自分を想像するのではなく、現在の年齢のまま2050年の世界にタイムスリップした状態を想像し、2050年を『現在』として思考、考察していくという方法です」
数十年後の自分ではなく現在の自分の年齢のまま、未来にタイムスリップすることで、将来世代の視点に立ちやすくなるというわけだ。
「仮想将来世代」という仕組みを使って考察することで、いま現在起こっていることの長期的な影響やサステナビリティの重要性を考えやすくなるとのこと。
「例えば、2050年を生きる将来世代として過去を振り返ると、25年前には大阪・関西万博があり、その後にどのようなレガシーが残ったかということを回顧的に考えていくことになります。『仮想将来世代』の視点で過去の歴史展開を想像していく過程で、現代の意思決定やアクションが、その後いい方向に働いたと考えるケースもあれば、悪い方向に働いたと考えるケースもあり得ます。重要なのは単なる予測ではなく、『過去の世代がそのアクションを取ってくれたから、いま自分たちは快適に過ごせている』『そのアクションを取らなかったことで、いまは負担が増加している』という将来世代の視点や思考を得ることです。このように考えていくことで近視眼的な思考が制御され、持続可能性をより具体的に考えるようになるということがわかってきています」
将来世代の視点に立つことで、現代におけるコストなどの制約に縛られずに、本質的に大事なことや長期的に見るとリスクになり得ることに気付けるようになるという。
「以前行った実践(社会実験)では、参加者が現世代の視点で考えるグループと『仮想将来世代』の視点で考えるグループに分かれて、同じテーマについて考えてもらいました。そうすると『仮想将来世代』のグループは未来社会の描き方が具体的で、提案する施策も長期的に見て意義のあるものが出てくる傾向がありました。その後、2つのグループから出てきた施策をプレゼンし合ってもらうと、現世代グループの参加者から『仮想将来世代のグループから出てきた施策を取り入れよう』という意見が出てきます。両グループが交渉、合意形成することで、将来のことを考えた施策が採用される可能性が高まるようです。『仮想将来世代』の方法を取り入れることによって、社会課題を持続可能性の観点から多角的に捉えられるようになるのだと考えられます」
研究を続けるなかで、近視眼的な思考とは異なる人間の特性が見えてきているそう。
「『フューチャー・デザイン』の研究からは、人間は将来世代の利益を考慮して意思決定ができるという性質も持っていることがわかってきています。先述した現代の『将来世代の利益を考慮できない社会の仕組み』のもとでは、この性質が生まれにくいのですが、『フューチャー・デザイン』では、人が本来持っている将来世代に共感できる性質を発揮できるような仕組みをデザインし、実践します。『仮想将来世代』は、その有効な仕組みのひとつであり、人が将来世代に共感を生み出し、長期的観点から意思決定や判断をすることが可能になると考えています」
世界全体が動き出している社会課題解決のためのアクション。そのカギとなり得るのが、「フューチャー・デザイン」だ。後編では、具体的な事例をもとに、自治体や企業が取り入れていく効果について伺う。
(取材・文/有竹亮介)

