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異色の数学理論「圏論」は投資にも生きるのか、数学者の加藤文元さんに聞いた
なぜ圏論が「現代数学の最重要理論」なのか
――数学の理論というと、数式や証明などが思い浮かびますが、関係性に着目する圏論はまったく異なるものに感じます。なぜ圏論という理論が出てきたのでしょうか。
加藤 端的に言うならば、学問分野を横断する力が数学に必要だったからです。たとえばトポロジー(位相幾何学)という「形」に着目した学問があります。トポロジーの視点で見ると、ドーナツとコーヒーカップは同じ形とみなすことができます。
この場合のコーヒーカップは、穴のある持ち手が1つ付いた、一般的なものとしてください。なぜそれがドーナツと同じ形なのか、理由を簡単に説明すると、ドーナツをぐにゃぐにゃと変形させていけば、どこを切ることもなくコーヒーカップにできるためです。
一方、野球のボールを切らずに変形させてもコーヒーカップにはできません。穴がないためです。このように、ゆるい意味で同じ形を定義するのがトポロジーです。
ところで、穴の個数を数える手法としてホモロジーという概念があります。これはどちらかといえば代数的な考え方なのですが、ドーナツやコーヒーカップなどの形からそのホモロジーを計算する方法は、実はたくさんあります。たくさんあるのに、その答えはいつも同じになる。これは不思議なことです。
圏論は、形から穴の個数を計算するための「方法の間の関係」を定式化するために生まれました。このようなワンランク上の階層の関係を明示化するために、圏論は考えられたわけです。
――加藤先生の著書では、圏論を「現代数学の最重要理論」と表現しています。なぜこの理論が近年そこまで重視されているのですか。
加藤 これも同様に、先ほど触れた「圏論の分野横断性」が求められているからです。数学には代数学、代数幾何学、数論幾何学、微分幾何学など、さまざまな分野があります。現代数学はダイナミックになっており、代数学の課題を解くのに他分野の要素を用いるなど、学問分野を横断することが増えています。
学問分野を横断するには、2つに橋を架けるような言葉が必要です。でなければ、異なる学問同士を融合して1つの課題を解くのは難しい。そこで、関係性を明示化する圏論が必要不可欠になっているのです
――加藤先生は圏論を数学にとどめず、お菓子などの身近な事象で説明しています。なぜ一般論に落とし込んだのですか。
加藤 圏論をお菓子でたとえたのは、おそらく私くらいだと思います(笑)。つねづね私は、圏論は数学の世界にとどめるにはもったいないプラットフォームだと感じていました。そう考えて日々を過ごすと、生活の至る所に圏論があると気づいたのです。それを紹介し、人々が圏論的な思考を持てば、さまざまな価値が生まれると考えました。
京都大学大学院理学研究科数学・数理解析専攻博士後期課程修了。九州大学大学院助手、京都大学大学院准教授、東京工業大学教授などを経て、現職。『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(KADOKAWA、のち角川ソフィア文庫)で第2回八重洲本大賞を受賞。その他の著書に、『数の進化論』(文春新書)、『数学の世界史』(KADOKAWA)、『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』(中公新書)、『ガロア 天才数学者の生涯』(中公新書、のち角川ソフィア文庫)、『リジッド幾何学入門』(岩波書店)、『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)など。



