人生の悩みにもヒントを与えてくれる?
異色の数学理論「圏論」は投資にも生きるのか、数学者の加藤文元さんに聞いた
圏論は、投資を行う上での「知的な土台」になる
――圏論的な思考を持つことで、どのような価値が生まれると思いますか。
加藤 もしも人生に悩む人がいたら「圏論を学んでください」と助言します。なぜなら、圏論的な思考で自分のこれまでを振り返ると、きっと大切な気づきがあるからです。
たとえば「私はどんな人間だろうか」と悩んだとします。その時、自分そのものを見るより、自分がかつてどんな危機に遭い、そこでどう自分を変えることができたか、「危機」と「自分の変化」という2つの関係に着目すると、自分という人間を解像度高く理解できるかもしれません。まさに圏論的な思考です。さらに発展すると、「あの時の危機で自分はこうなったから、次はこう対処しよう」と、自分の行動に反映できる可能性があります。
――東証マネ部!では、お金や資産運用の記事を中心に掲載しています。そこで聞いてみたいのですが、圏論は資産運用や投資にも役に立つ部分がありますか。
加藤 もちろん、圏論が投資の必勝法や資産運用のコツに直接つながることはありません。しかし、投資判断を冷静に行うための知的な土台にはなり得ると思います。
どんな世界にも、さまざまなモノとの関係性が存在します。投資でも、興味のある銘柄が出てきたら、他の銘柄との比較、さらには政治、世界情勢、天候、社会の動きなど、さまざまな要素との関連を調べる必要があります。
皆さんは無意識にこれらの関係を考えて「どの銘柄に投資するか」を決めているのではないでしょうか。ここに圏論的思考を入れて、冷静に関係性を整理すると、よりていねいに投資計画を立てられると思います。
また、この作業を繰り返すうちに、かつて投資したAの銘柄と、今回検討するBの銘柄で、関係性のネットワークが似ている場合が出てくるかもしれません。まさしく「もなかとマカロン」から「手巻き寿司とカリフォルニアロール」につながるようなケースです。すると、Aの投資経験をもとにBへの投資判断を考えることもできるでしょう。圏論による発見は、きっと投資をする上でも大切な気づきになるはずです。
(取材・文/有井太郎、撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2026年7月現在の情報です
京都大学大学院理学研究科数学・数理解析専攻博士後期課程修了。九州大学大学院助手、京都大学大学院准教授、東京工業大学教授などを経て、現職。『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(KADOKAWA、のち角川ソフィア文庫)で第2回八重洲本大賞を受賞。その他の著書に、『数の進化論』(文春新書)、『数学の世界史』(KADOKAWA)、『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』(中公新書)、『ガロア 天才数学者の生涯』(中公新書、のち角川ソフィア文庫)、『リジッド幾何学入門』(岩波書店)、『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)など。



